「歯が痛い」と歯医者さんを受診したのに、歯には異常がなかった……そんな不思議な経験をしたことはありませんか?その痛みの原因は、もしかしたら「筋・筋膜痛(きん・きんまくつう)」かもしれません。筋・筋膜痛とは何なのか、痛みを生じるメカニズムと、自分で簡単にできて効果的な、筋・筋膜痛のマッサージ&ストレッチをご紹介します。
「歯が痛い」と歯医者さんを受診したのに、歯には異常がなかった……そんな不思議な経験をしたことはありませんか?その痛みの原因は、もしかしたら「筋・筋膜痛(きん・きんまくつう)」かもしれません。筋・筋膜痛とは何なのか、痛みを生じるメカニズムと、自分で簡単にできて効果的な、筋・筋膜痛のマッサージ&ストレッチをご紹介します。
<監修>
<監修>
慶應義塾大学医学部歯科・口腔外科学教室 助教
臼田 頌(うすだ・しょう)先生
慶應義塾大学医学部歯科・口腔外科学教室 助教
臼田 頌(うすだ・しょう)先生
歯科医師。2006年、東京歯科大学歯学部卒業後、慶應義塾大学医学部 歯科・口腔外科学教室、多摩北部医療センター 歯科口腔外科を経て、2015年より現職。日本口腔顔面痛学会専門医・評議員。日本いたみ財団いたみ専門医。日本老年歯科医学会認定医。
歯科医師。2006年、東京歯科大学歯学部卒業後、慶應義塾大学医学部 歯科・口腔外科学教室、多摩北部医療センター 歯科口腔外科を経て、2015年より現職。日本口腔顔面痛学会専門医・評議員。日本いたみ財団いたみ専門医。日本老年歯科医学会認定医。
「筋・筋膜痛」とは簡単にいうと筋肉のコリの痛みのことです。食べ物を噛む時に使う咀嚼筋(そしゃくきん)や首、肩の筋肉が,長時間活動(収縮)したままになってしまうと、筋線維が収縮したまま固まって「コリ」が作られます。この時点ではまだ痛みは生じませんが、固まった筋肉が血管を圧迫し、血行不良を引き起こすことで、そこから痛み物質がばらまかれ、最終的に痛み「筋・筋膜痛」が発生してしまいます。
また「筋・筋膜痛」が厄介なのは「関連痛(異所性疼痛:いしょせいとうつう)」を引き起こしやすいことです。関連痛とは、脳が「本来の痛みの原因となっている場所から離れた別の場所が痛い」と間違えて認識してしまうことです。つまり、本来はあごの筋肉や首、肩の筋肉のコリが原因の痛みなのに、そこから離れた歯に痛みが出ることがあるので、歯医者さんに行っても歯の異常が見つからないというわけなのです。
「筋・筋膜痛」とは簡単にいうと筋肉のコリの痛みのことです。食べ物を噛む時に使う咀嚼筋(そしゃくきん)や首、肩の筋肉が,長時間活動(収縮)したままになってしまうと、筋線維が収縮したまま固まって「コリ」が作られます。この時点ではまだ痛みは生じませんが、固まった筋肉が血管を圧迫し、血行不良を引き起こすことで、そこから痛み物質がばらまかれ、最終的に痛み「筋・筋膜痛」が発生してしまいます。
また「筋・筋膜痛」が厄介なのは「関連痛(異所性疼痛:いしょせいとうつう)」を引き起こしやすいことです。関連痛とは、脳が「本来の痛みの原因となっている場所から離れた別の場所が痛い」と間違えて認識してしまうことです。つまり、本来はあごの筋肉や首、肩の筋肉のコリが原因の痛みなのに、そこから離れた歯に痛みが出ることがあるので、歯医者さんに行っても歯の異常が見つからないというわけなのです。
本来の痛みの原因である筋肉のコリの場所を「トリガーポイント」といいます。トリガーポイントと関連痛を引き起こす場所には、ある程度の傾向があります。
歯に関連痛を生じさせる筋肉は、主に咀嚼筋(食べ物を噛み砕く筋肉)です。そのうちの咬筋(こうきん)と側頭筋(そくとうきん)が特に歯痛と関連することが多いです。
本来の痛みの原因である筋肉のコリの場所を「トリガーポイント」といいます。トリガーポイントと関連痛を引き起こす場所には、ある程度の傾向があります。
歯に関連痛を生じさせる筋肉は、主に咀嚼筋(食べ物を噛み砕く筋肉)です。そのうちの咬筋(こうきん)と側頭筋(そくとうきん)が特に歯痛と関連することが多いです。
・咬筋(下あごの外側の筋肉)
・咬筋(下あごの外側の筋肉)
咬筋の上部の痛みは、上の奥歯や上あごに関連痛を引き起こしやすく、下部の痛みは下の奥歯や下あごに関連痛を引き起こしやすい。
咬筋の上部の痛みは、上の奥歯や上あごに関連痛を引き起こしやすく、下部の痛みは下の奥歯や下あごに関連痛を引き起こしやすい。
・側頭筋(こめかみの上の筋肉)
・側頭筋(こめかみの上の筋肉)
側頭筋の前方部の痛みは、上の前歯や目の周りに、後方部の痛みは上の奥歯や頭に関連痛を引き起こしやすい。
咀嚼筋は、歯と歯が接触するだけでも活動する筋肉です。一般的に、1日のうちで歯と歯が接する時間は食事や飲み込みなどの20分程度しかなく、それ以外の時間は、歯と歯は接していません。しかし、食いしばり(噛みしめ癖)がある人や、寝ている時に歯ぎしりをする人、パソコンで集中し続ける作業などが長時間に及んでいる人などは、無意識のうちに歯と歯が長時間にわたって接している可能性があり、慢性的に咬筋や側頭筋がコリやすくなっています。
また、次のように首や肩の筋肉のトリガーポイントによっても、歯やあごに関連痛を引き起こすことも多くあります。
側頭筋の前方部の痛みは、上の前歯や目の周りに、後方部の痛みは上の奥歯や頭に関連痛を引き起こしやすい。
咀嚼筋は、歯と歯が接触するだけでも活動する筋肉です。一般的に、1日のうちで歯と歯が接する時間は食事や飲み込みなどの20分程度しかなく、それ以外の時間は、歯と歯は接していません。しかし、食いしばり(噛みしめ癖)がある人や、寝ている時に歯ぎしりをする人、パソコンで集中し続ける作業などが長時間に及んでいる人などは、無意識のうちに歯と歯が長時間にわたって接している可能性があり、慢性的に咬筋や側頭筋がコリやすくなっています。
また、次のように首や肩の筋肉のトリガーポイントによっても、歯やあごに関連痛を引き起こすことも多くあります。
・胸鎖乳突筋(きょうさにゅうとつきん:首の横の筋肉)
・胸鎖乳突筋(きょうさにゅうとつきん:首の横の筋肉)
胸鎖乳突筋にトリガーポイントがあると、目の周りやおでこ、後頭部、上の歯,上あごなどに関連痛を引き起こしやすい。
胸鎖乳突筋にトリガーポイントがあると、目の周りやおでこ、後頭部、上の歯,上あごなどに関連痛を引き起こしやすい。
・僧帽筋(そうぼうきん:肩の筋肉)
・僧帽筋(そうぼうきん:肩の筋肉)
僧帽筋のトリガーポイントは首、頭、あごなど様々な場所に関連痛を引き起こしやすい。
筋・筋膜痛による歯痛かどうかは、トリガーポイントを5秒間圧迫してみて、歯に痛みが生じるかどうかで、ある程度判断できます。ただし、他の病気の場合もあるので、受診して確かめるには、かかりつけ歯科医または日本口腔顔面痛学会のホームページから専門医を見つけて相談してみましょう。
僧帽筋のトリガーポイントは首、頭、あごなど様々な場所に関連痛を引き起こしやすい。
筋・筋膜痛による歯痛かどうかは、トリガーポイントを5秒間圧迫してみて、歯に痛みが生じるかどうかで、ある程度判断できます。ただし、他の病気の場合もあるので、受診して確かめるには、かかりつけ歯科医または日本口腔顔面痛学会のホームページから専門医を見つけて相談してみましょう。
筋・筋膜痛は筋肉のコリが原因なので、セルフケアでコリをほぐすことが大切です。マッサージとストレッチで筋肉の血流を促し、凝り固まった筋肉をほぐして痛み物質を物理的に流していきましょう。
筋・筋膜痛は筋肉のコリが原因なので、セルフケアでコリをほぐすことが大切です。マッサージとストレッチで筋肉の血流を促し、凝り固まった筋肉をほぐして痛み物質を物理的に流していきましょう。
・1時間に1回程度の頻度で、最低2週間は積極的に行い、筋肉をほぐす習慣を身につけましょう。
・食いしばり(噛みしめ癖)などのクセが原因の場合、慢性的に咀嚼筋にコリが生じ続けている状態なので、ストレッチやマッサージも習慣化して、継続的にコリを取り除いていくことが大切です。
・マッサージやストレッチは、温めながら行うとより効果的です。お風呂の中などで行うと習慣づけにも役立ちます。
・マッサージ&ストレッチの強さは自身で調整し、「痛いけれど気持ちいい」程度の強さがおすすめです。
・揉み返しの痛みが強い時には一時的に回数を減らしても構いません。また揉み返しの痛みには、用法・用量を守った上で市販の鎮痛剤をのんでも構いません。
・1時間に1回程度の頻度で、最低2週間は積極的に行い、筋肉をほぐす習慣を身につけましょう。
・食いしばり(噛みしめ癖)などのクセが原因の場合、慢性的に咀嚼筋にコリが生じ続けている状態なので、ストレッチやマッサージも習慣化して、継続的にコリを取り除いていくことが大切です。
・マッサージやストレッチは、温めながら行うとより効果的です。お風呂の中などで行うと習慣づけにも役立ちます。
・マッサージ&ストレッチの強さは自身で調整し、「痛いけれど気持ちいい」程度の強さがおすすめです。
・揉み返しの痛みが強い時には一時的に回数を減らしても構いません。また揉み返しの痛みには、用法・用量を守った上で市販の鎮痛剤をのんでも構いません。
(1) ❶こめかみ ❷耳の付け根 ❸あごの角の少し内側のポイント(マスクを着けた時に、上ゴムと下ゴムの間にあたる場所)のうち、「コリコリした一番痛いところ」を両手の指先で探します。
(1) ❶こめかみ ❷耳の付け根 ❸あごの角の少し内側のポイント(マスクを着けた時に、上ゴムと下ゴムの間にあたる場所)のうち、「コリコリした一番痛いところ」を両手の指先で探します。
(2)下図のように握りこぶしをつくり、(1)で探した場所に当て、円を描くようにグリグリと10秒間マッサージします。指先で行ってもOKです。マッサージの強さは「痛いけれど気持ちいい」程度の強さで、強くなり過ぎないように注意しましょう。
(2)下図のように握りこぶしをつくり、(1)で探した場所に当て、円を描くようにグリグリと10秒間マッサージします。指先で行ってもOKです。マッサージの強さは「痛いけれど気持ちいい」程度の強さで、強くなり過ぎないように注意しましょう。
(3)1cmずつポイントをずらしながら、一番痛くてコリコリしたところを探して順次行っていきます。
(4)痛いところが減ってきたら、大きく口を開けながらマッサージしてみましょう。
(3)1cmずつポイントをずらしながら、一番痛くてコリコリしたところを探して順次行っていきます。
(4)痛いところが減ってきたら、大きく口を開けながらマッサージしてみましょう。
(1)片手を後ろに回し、反対側の手で頭を押さえます。
(2)そのまま頭を引き抜くイメージで、ゆっくり真横に20秒間倒します。
(1)片手を後ろに回し、反対側の手で頭を押さえます。
(2)そのまま頭を引き抜くイメージで、ゆっくり真横に20秒間倒します。
(3)首を横に倒したまま、おへそを見るように20秒間下を向きます。
(4)首を横に倒したまま、今度は空を見上げるように20秒間上を向きます。
(5)反対側も同様に行います。
(3)首を横に倒したまま、おへそを見るように20秒間下を向きます。
(4)首を横に倒したまま、今度は空を見上げるように20秒間上を向きます。
(5)反対側も同様に行います。
(1)図のように両手を組みます。
(2)組んだ手を首の後ろに回します。
(1)図のように両手を組みます。
(2)組んだ手を首の後ろに回します。
(3)親指で、耳の真下から「痛いけれど気持ちいい」程度に押していきます。少しずつ押すポイントを下げて肩のほうまで順に押していきます。
(3)親指で、耳の真下から「痛いけれど気持ちいい」程度に押していきます。少しずつ押すポイントを下げて肩のほうまで順に押していきます。
(1)片方の腕を、肘を曲げずにゆっくりと後ろに引っ張りながら、なるべく大きく回します。
(1)片方の腕を、肘を曲げずにゆっくりと後ろに引っ張りながら、なるべく大きく回します。
(2)反対側の腕も同様に行います。
(2)反対側の腕も同様に行います。
(1)パソコンをつかんで肩を丸めるようにしながら背中を伸ばし、肩甲骨の周囲を20秒間伸ばします。
(1)パソコンをつかんで肩を丸めるようにしながら背中を伸ばし、肩甲骨の周囲を20秒間伸ばします。
(2)次に手を頭の後ろに置き、肘を後ろに引っ張るように伸ばして20秒間保ちます。胸を張って肩甲骨をくっつけるイメージで行いましょう。
(2)次に手を頭の後ろに置き、肘を後ろに引っ張るように伸ばして20秒間保ちます。胸を張って肩甲骨をくっつけるイメージで行いましょう。
筋・筋膜痛の他にも、歯や歯の周辺に異常がないのに歯痛を感じる疾患は幾つかあり、「非歯原性歯痛(ひしげんせいしつう)」と呼ばれています。日本口腔顔面痛学会のガイドラインでは、その原因を以下の8つに分類しています。
筋・筋膜痛の他にも、歯や歯の周辺に異常がないのに歯痛を感じる疾患は幾つかあり、「非歯原性歯痛(ひしげんせいしつう)」と呼ばれています。日本口腔顔面痛学会のガイドラインでは、その原因を以下の8つに分類しています。
(1)筋・筋膜痛による歯痛
筋肉のコリが原因で起きる歯の痛み。非歯原性歯痛の原因の6割以上を占める。
(2)神経障害性疼痛による歯痛
神経に障害があることで起きる歯の痛み。主なものに、三叉神経痛(顔の感覚を脳に伝える末梢神経の神経痛)や帯状疱疹による神経痛などがあります。
(3)神経血管性頭痛による歯痛
片頭痛や群発頭痛といった頭痛が原因で起きる歯の痛み。
(4)上顎洞疾患による歯痛
上あごと接している副鼻腔の炎症(いわゆる蓄膿症)で起きる歯の痛み。
(5)心臓疾患による歯痛
狭心症などの心臓疾患によって起きる歯の痛み。
(6)精神疾患または心理社会的要因による歯痛
不安や気分の落ち込み、統合失調症、うつ病などによって起きる歯の痛み。
(7)特発性歯痛
検査で原因が特定できない特発性の歯の痛み。
(8)その他の様々な疾患による歯痛
他の病気が原因で起こる歯の痛み。
筋・筋膜痛のマッサージやストレッチをしてみても効果が感じられない場合は、他に原因がないかどうか、早めに受診しましょう。その際は、歯科か口腔外科で相談するのがよいでしょう。日本口腔顔面痛学会のホームページから専門医を見つけることもできます。
(1)筋・筋膜痛による歯痛
筋肉のコリが原因で起きる歯の痛み。非歯原性歯痛の原因の6割以上を占める。
(2)神経障害性疼痛による歯痛
神経に障害があることで起きる歯の痛み。主なものに、三叉神経痛(顔の感覚を脳に伝える末梢神経の神経痛)や帯状疱疹による神経痛などがあります。
(3)神経血管性頭痛による歯痛
片頭痛や群発頭痛といった頭痛が原因で起きる歯の痛み。
(4)上顎洞疾患による歯痛
上あごと接している副鼻腔の炎症(いわゆる蓄膿症)で起きる歯の痛み。
(5)心臓疾患による歯痛
狭心症などの心臓疾患によって起きる歯の痛み。
(6)精神疾患または心理社会的要因による歯痛
不安や気分の落ち込み、統合失調症、うつ病などによって起きる歯の痛み。
(7)特発性歯痛
検査で原因が特定できない特発性の歯の痛み。
(8)その他の様々な疾患による歯痛
他の病気が原因で起こる歯の痛み。
筋・筋膜痛のマッサージやストレッチをしてみても効果が感じられない場合は、他に原因がないかどうか、早めに受診しましょう。その際は、歯科か口腔外科で相談するのがよいでしょう。日本口腔顔面痛学会のホームページから専門医を見つけることもできます。
筋・筋膜痛の改善にはセルフケアが重要です。ご紹介したマッサージやストレッチの他に、適度な運動をすることも改善につながります。ウォーキングやラジオ体操など簡単な運動でよいので、続けるようにしましょう。
また、睡眠の質を改善することも大切です。ノンレム睡眠(脳が眠る深い睡眠)には4段階の深さがあり、ノンレム睡眠が浅い段階に入ると歯ぎしりが起きやすいと言われています。歯ぎしりを少なくするには、深いノンレム睡眠の時間が多い「質の高い睡眠」を目指しましょう。そのためには、朝日をしっかり浴びること、日中は身体と脳をしっかり活動させること、スマートフォンが発するブルーライトを寝る前には見ないことなどが大切です。
マッサージとストレッチを習慣にし、運動や睡眠など基本的なライフスタイルも見直して、筋・筋膜痛のセルフケアに取り組みましょう。
筋・筋膜痛の改善にはセルフケアが重要です。ご紹介したマッサージやストレッチの他に、適度な運動をすることも改善につながります。ウォーキングやラジオ体操など簡単な運動でよいので、続けるようにしましょう。
また、睡眠の質を改善することも大切です。ノンレム睡眠(脳が眠る深い睡眠)には4段階の深さがあり、ノンレム睡眠が浅い段階に入ると歯ぎしりが起きやすいと言われています。歯ぎしりを少なくするには、深いノンレム睡眠の時間が多い「質の高い睡眠」を目指しましょう。そのためには、朝日をしっかり浴びること、日中は身体と脳をしっかり活動させること、スマートフォンが発するブルーライトを寝る前には見ないことなどが大切です。
マッサージとストレッチを習慣にし、運動や睡眠など基本的なライフスタイルも見直して、筋・筋膜痛のセルフケアに取り組みましょう。