アセトアミノフェンは、発熱や痛みを抑える解熱鎮痛剤の代表的な成分の1つです。最近では、新型コロナワクチンの副反応対策に使える薬としてアセトアミノフェンが紹介されたことから、その名前を耳にした方もいるかもしれません。今回は、アセトアミノフェンがどのような成分なのか、効果や特徴、使用する際の注意点などについてお伝えします。
(インタビューは2022年6月13日に行い、内容はその時の状況に基づいています。)
アセトアミノフェンは、発熱や痛みを抑える解熱鎮痛剤の代表的な成分の1つです。最近では、新型コロナワクチンの副反応対策に使える薬としてアセトアミノフェンが紹介されたことから、その名前を耳にした方もいるかもしれません。今回は、アセトアミノフェンがどのような成分なのか、効果や特徴、使用する際の注意点などについてお伝えします。
(インタビューは2022年6月13日に行い、内容はその時の状況に基づいています。)
<監修>
<監修>
城西大学薬学部 准教授
鈴木龍一郎(すずきりゅういちろう)先生
城西大学薬学部 准教授
鈴木龍一郎(すずきりゅういちろう)先生
1999年明治薬科大学薬学部卒業。05年同大学大学院薬学研究科修了(博士(薬学))。独立行政法人理化学研究所長田抗生物質研究室協力研究員、大正製薬株式会社セルフメディケーション開発研究所主任研究員補などを経て、17年より現職。日本薬学会、日本生薬学会(代議員)、日本臨床化学会(評議員)所属。
1999年明治薬科大学薬学部卒業。05年同大学大学院薬学研究科修了(博士(薬学))。独立行政法人理化学研究所長田抗生物質研究室協力研究員、大正製薬株式会社セルフメディケーション開発研究所主任研究員補などを経て、17年より現職。日本薬学会、日本生薬学会(代議員)、日本臨床化学会(評議員)所属。
アセトアミノフェンは、熱を下げる「解熱」と、痛みを緩和する「鎮痛」という2つの作用を併せもつ解熱鎮痛剤の代表的な成分です。医薬品としての歴史は古く、1870年代に科学的な合成薬として開発され、初めて臨床で用いられたのが1890年代といわれています。以来、100年以上にわたって世界中で広く使用されてきました。
長い歴史をもつ成分でありながら、アセトアミノフェンが熱や痛みに対してどのように効くのか、その作用機序についてはいまだはっきりしたことは分かっていません。ただし、現在のところ、およそ次のような働きがあると推測されています。
アセトアミノフェンは、熱を下げる「解熱」と、痛みを緩和する「鎮痛」という2つの作用を併せもつ解熱鎮痛剤の代表的な成分です。医薬品としての歴史は古く、1870年代に科学的な合成薬として開発され、初めて臨床で用いられたのが1890年代といわれています。以来、100年以上にわたって世界中で広く使用されてきました。
長い歴史をもつ成分でありながら、アセトアミノフェンが熱や痛みに対してどのように効くのか、その作用機序についてはいまだはっきりしたことは分かっていません。ただし、現在のところ、およそ次のような働きがあると推測されています。
体の中では、脳の視床下部の体温中枢が体温の調節をつかさどっています。アセトアミノフェンはこの体温中枢に作用し、抹消血管を広げることで体外へ熱を逃し、体温を下げる働きをします。
また、体の中で発熱や痛みを引き起こす原因物質に「プロスタグランジン(PG)」があります。アセトアミノフェンは、脳の中枢系でプロスタグランジンをつくり出す酵素「シクロオキシゲナーゼ(COX)」を阻害することで、熱や痛みを抑えると考えられています。
こうした作用により、アセトアミノフェンはかぜやインフルエンザなどによる発熱や悪寒に、また、頭痛、生理痛、関節痛、神経痛、歯痛など様々な痛みの緩和に使用されます。
体の中では、脳の視床下部の体温中枢が体温の調節をつかさどっています。アセトアミノフェンはこの体温中枢に作用し、抹消血管を広げることで体外へ熱を逃し、体温を下げる働きをします。
また、体の中で発熱や痛みを引き起こす原因物質に「プロスタグランジン(PG)」があります。アセトアミノフェンは、脳の中枢系でプロスタグランジンをつくり出す酵素「シクロオキシゲナーゼ(COX)」を阻害することで、熱や痛みを抑えると考えられています。
こうした作用により、アセトアミノフェンはかぜやインフルエンザなどによる発熱や悪寒に、また、頭痛、生理痛、関節痛、神経痛、歯痛など様々な痛みの緩和に使用されます。
本来の痛みの原因である筋肉のコリの場所を「トリガーポイント」といいます。トリガーポイントと関連痛を引き起こす場所には、ある程度の傾向があります。
歯に関連痛を生じさせる筋肉は、主に咀嚼筋(食べ物を噛み砕く筋肉)です。そのうちの咬筋(こうきん)と側頭筋(そくとうきん)が特に歯痛と関連することが多いです。
本来の痛みの原因である筋肉のコリの場所を「トリガーポイント」といいます。トリガーポイントと関連痛を引き起こす場所には、ある程度の傾向があります。
歯に関連痛を生じさせる筋肉は、主に咀嚼筋(食べ物を噛み砕く筋肉)です。そのうちの咬筋(こうきん)と側頭筋(そくとうきん)が特に歯痛と関連することが多いです。
アセトアミノフェンが脳の中枢系に作用するのに対し、NSAIDsは末梢に作用し、局所でシクロオキシゲナーゼを阻害することでプロスタグランジンの産生を抑制し、解熱や鎮痛、抗炎症作用を発揮します。NSAIDsは炎症を抑える作用をもつため、例えばテニス肘や運動による膝の痛みなど、外傷性の炎症による痛みもしっかり抑えてくれます。
一方、アセトアミノフェンには熱を下げたり痛みを緩和したりする作用はありますが、炎症を抑える抗炎症作用はほとんどありません。アセトアミノフェンがNSAIDsに分類されていないのはこのためです。また、鎮痛効果もNSAIDsと比べるとやや穏やかです。
アセトアミノフェンが脳の中枢系に作用するのに対し、NSAIDsは末梢に作用し、局所でシクロオキシゲナーゼを阻害することでプロスタグランジンの産生を抑制し、解熱や鎮痛、抗炎症作用を発揮します。NSAIDsは炎症を抑える作用をもつため、例えばテニス肘や運動による膝の痛みなど、外傷性の炎症による痛みもしっかり抑えてくれます。
一方、アセトアミノフェンには熱を下げたり痛みを緩和したりする作用はありますが、炎症を抑える抗炎症作用はほとんどありません。アセトアミノフェンがNSAIDsに分類されていないのはこのためです。また、鎮痛効果もNSAIDsと比べるとやや穏やかです。
NSAIDsで起こりやすい副作用として、消化性潰瘍などの胃腸障害が知られています。これは、シクロオキシゲナーゼを阻害することで胃や十二指腸の粘膜を守るプロスタグランジンの働きも抑制してしまうためです。
これに対し、アセトアミノフェンは胃腸への影響が少なく、胃腸障害が起こりにくいことも特徴の1つです。NSAIDsを使用して起こる腎障害なども少なく、服用後に眠気を催すこともありません。ただし、多量の使用により肝臓に障害を引き起こすことがあるため、肝障害がある人は注意が必要です。
NSAIDsで起こりやすい副作用として、消化性潰瘍などの胃腸障害が知られています。これは、シクロオキシゲナーゼを阻害することで胃や十二指腸の粘膜を守るプロスタグランジンの働きも抑制してしまうためです。
これに対し、アセトアミノフェンは胃腸への影響が少なく、胃腸障害が起こりにくいことも特徴の1つです。NSAIDsを使用して起こる腎障害なども少なく、服用後に眠気を催すこともありません。ただし、多量の使用により肝臓に障害を引き起こすことがあるため、肝障害がある人は注意が必要です。
NSAIDsを小児のインフルエンザや水痘(みずぼうそう)などの解熱に使用すると、インフルエンザ脳症を引き起こすリスクが高まる恐れがあるため、NSAIDsは15歳未満の子どもには使用できません。
一方、アセトアミノフェンは脳症のリスクがなく、子どもにも安全に使うことができます。そのため、小さな子どもの解熱鎮痛剤としてはアセトアミノフェンが第一選択薬となっています。また、体の機能の低下した高齢者に対しても安心して使える成分です。
NSAIDsを小児のインフルエンザや水痘(みずぼうそう)などの解熱に使用すると、インフルエンザ脳症を引き起こすリスクが高まる恐れがあるため、NSAIDsは15歳未満の子どもには使用できません。
一方、アセトアミノフェンは脳症のリスクがなく、子どもにも安全に使うことができます。そのため、小さな子どもの解熱鎮痛剤としてはアセトアミノフェンが第一選択薬となっています。また、体の機能の低下した高齢者に対しても安心して使える成分です。
・熱を下げる作用と痛みを緩和する作用に優れている
・炎症を抑える作用はほとんどない
・胃腸障害や腎障害などの副作用が起こりにくい
・安全性が高く、小さな子どもや高齢者にも使用できる
主な解熱鎮痛成分の特徴
・熱を下げる作用と痛みを緩和する作用に優れている
・炎症を抑える作用はほとんどない
・胃腸障害や腎障害などの副作用が起こりにくい
・安全性が高く、小さな子どもや高齢者にも使用できる
主な解熱鎮痛成分の特徴
分類 |
アセトアミノフェン |
NSAIDs |
---|---|---|
主な成分名 |
アセトアミノフェン |
イブプロフェン、ロキソプロフェン、エテンザミド、アスピリンなど |
解熱作用 |
あり |
あり |
鎮痛作用 |
あり |
あり |
抗炎症作用 |
ほとんどなし |
あり |
主な副作用 |
肝障害が起こることがある |
胃腸障害、腎障害、アスピリン喘息、過敏症など |
分類 |
アセトアミノフェン |
NSAIDs |
---|---|---|
主な成分名 |
アセトアミノフェン |
イブプロフェン、ロキソプロフェン、エテンザミド、アスピリンなど |
解熱作用 |
あり |
あり |
鎮痛作用 |
あり |
あり |
抗炎症作用 |
ほとんどなし |
あり |
主な副作用 |
肝障害が起こることがある |
胃腸障害、腎障害、アスピリン喘息、過敏症など |
新型コロナワクチン接種後に副反応として発熱や痛みが起こった場合、市販の解熱鎮痛剤をのんでよいのかどうか迷うところです。これに対し、厚生労働省はホームページで
「医師が処方する薬以外にも、市販の解熱鎮痛薬(アセトアミノフェンや非ステロイド性抗炎症薬(イブプロフェンやロキソプロフェン等))で対応いただくことができます。」
と具体的な成分名を挙げて紹介しました。
副反応対策に用いる解熱鎮痛剤の1つとしてアセトアミノフェンが推奨される理由は、その安全性にあります。
新型コロナウイルス感染症がどのような病気なのかまだよく分からない中で、参考になるのは同じくウイルス性の疾患であるインフルエンザです。先に述べたように、小児のインフルエンザに使用する解熱鎮痛剤としては、アセトアミノフェンが推奨されています。小さな子どもから使えるほど安全性の高い成分であること、また、長く使用されてきた実績があることが、アセトアミノフェンが第一に選ばれる理由と考えられます。
副反応の懸念からワクチン接種を敬遠する人も見られますが、副反応は免疫機能が働いていることの現れです。発熱や頭痛でつらい時は我慢せず、アセトアミノフェンやのみ慣れた解熱鎮痛剤を服用して対処するようにしましょう。
新型コロナワクチン接種後に副反応として発熱や痛みが起こった場合、市販の解熱鎮痛剤をのんでよいのかどうか迷うところです。これに対し、厚生労働省はホームページで
「医師が処方する薬以外にも、市販の解熱鎮痛薬(アセトアミノフェンや非ステロイド性抗炎症薬(イブプロフェンやロキソプロフェン等))で対応いただくことができます。」
と具体的な成分名を挙げて紹介しました。
副反応対策に用いる解熱鎮痛剤の1つとしてアセトアミノフェンが推奨される理由は、その安全性にあります。
新型コロナウイルス感染症がどのような病気なのかまだよく分からない中で、参考になるのは同じくウイルス性の疾患であるインフルエンザです。先に述べたように、小児のインフルエンザに使用する解熱鎮痛剤としては、アセトアミノフェンが推奨されています。小さな子どもから使えるほど安全性の高い成分であること、また、長く使用されてきた実績があることが、アセトアミノフェンが第一に選ばれる理由と考えられます。
副反応の懸念からワクチン接種を敬遠する人も見られますが、副反応は免疫機能が働いていることの現れです。発熱や頭痛でつらい時は我慢せず、アセトアミノフェンやのみ慣れた解熱鎮痛剤を服用して対処するようにしましょう。
アセトアミノフェン配合の解熱鎮痛剤は、薬局や薬店で手軽に購入することができます。安全といわれる薬ですが、使用法を誤れば副作用を招くこともあり得ます。使用に当たっては、次のことに気をつけましょう。
アセトアミノフェン配合の解熱鎮痛剤は、薬局や薬店で手軽に購入することができます。安全といわれる薬ですが、使用法を誤れば副作用を招くこともあり得ます。使用に当たっては、次のことに気をつけましょう。
アセトアミノフェンは比較的作用が穏やかなため、効果がなかなか出ないからと多めに服用してしまうケースが見られますが、過剰摂取は肝障害などの副作用を招く危険があり、絶対にNGです。薬の添付文書に書かれた年齢制限、用法・用量を守って正しく使いましょう。
アセトアミノフェンは比較的作用が穏やかなため、効果がなかなか出ないからと多めに服用してしまうケースが見られますが、過剰摂取は肝障害などの副作用を招く危険があり、絶対にNGです。薬の添付文書に書かれた年齢制限、用法・用量を守って正しく使いましょう。
次の人は、アセトアミノフェンの使用は禁忌とされています。
アセトアミノフェンを使用できない人
・消化性潰瘍(胃潰瘍や十二指腸潰瘍)のある人
・重篤な血液の異常のある人
・重篤な肝障害のある人
・重篤な腎障害のある人
・重篤な心機能不全のある人
・アセトアミノフェンに対し過敏症のある人
・アスピリン喘息の人や過去にアスピリン喘息の経験がある人
次の人は、アセトアミノフェンの使用は禁忌とされています。
アセトアミノフェンを使用できない人
・消化性潰瘍(胃潰瘍や十二指腸潰瘍)のある人
・重篤な血液の異常のある人
・重篤な肝障害のある人
・重篤な腎障害のある人
・重篤な心機能不全のある人
・アセトアミノフェンに対し過敏症のある人
・アスピリン喘息の人や過去にアスピリン喘息の経験がある人
アセトアミノフェンをワルファリンや利尿薬と一緒にのむと、副作用を起こしたり、お互いに作用を強くしたり、弱くしたりする可能性があります。その他にも病気の治療で何らかの薬を服用中の人は、必ずかかりつけの医師、薬剤師に相談してから使用するようにしましょう。
アセトアミノフェンをワルファリンや利尿薬と一緒にのむと、副作用を起こしたり、お互いに作用を強くしたり、弱くしたりする可能性があります。その他にも病気の治療で何らかの薬を服用中の人は、必ずかかりつけの医師、薬剤師に相談してから使用するようにしましょう。
アルコールと一緒にアセトアミノフェンを服用したり、服用してすぐにアルコールを摂取したりすると、肝障害のリスクが高くなります。
アルコールと一緒にアセトアミノフェンを服用したり、服用してすぐにアルコールを摂取したりすると、肝障害のリスクが高くなります。
市販のかぜ薬や痛み止めの中には、アセトアミノフェンが配合されているものが多くあります。一緒にのむと、同じ成分が重なることで副作用が生じやすくなるため注意が必要です。他の痛み止めやかぜ薬を使う場合は、アセトアミノフェンが含まれていないか確認するようにしましょう。
市販のかぜ薬や痛み止めの中には、アセトアミノフェンが配合されているものが多くあります。一緒にのむと、同じ成分が重なることで副作用が生じやすくなるため注意が必要です。他の痛み止めやかぜ薬を使う場合は、アセトアミノフェンが含まれていないか確認するようにしましょう。
薬をのんでも発熱や痛みが治まらない場合は、自己判断で増量したり長期間のみ続けたりすることは避け、早めに医療機関を受診しましょう。
アセトアミノフェン配合薬をはじめとする市販の解熱鎮痛剤は、一時的に発熱や痛みを抑えるための対症療法として用いるもので、原因そのものを治す薬ではありません。適切に使用して、毎日の快適な生活に役立ててください。
薬をのんでも発熱や痛みが治まらない場合は、自己判断で増量したり長期間のみ続けたりすることは避け、早めに医療機関を受診しましょう。
アセトアミノフェン配合薬をはじめとする市販の解熱鎮痛剤は、一時的に発熱や痛みを抑えるための対症療法として用いるもので、原因そのものを治す薬ではありません。適切に使用して、毎日の快適な生活に役立ててください。