免疫とは?どうして免疫と腸が関係するの?

免疫とは?どうして免疫と腸が関係するの? 免疫とは?どうして免疫と腸が関係するの?

新型コロナウイルスの流行もあり、免疫力アップに関心をもつ人が増えています。その免疫力と密接にかかわっているといわれるのが、腸です。免疫とはどのようなもので、なぜ腸が関係するのか、専門家に最新の知見を交えたお話をうかがいました。

<監修>
小林弘幸先生
順天堂大学医学部・大学院 医学研究科教授

小林弘幸先生 順天堂大学医学部・大学院 医学研究科教授 小林弘幸先生 順天堂大学医学部・大学院 医学研究科教授

こばやし・ひろゆき 1960年埼玉県生まれ。日本スポーツ協会公認スポーツドクター。自律神経研究の第一人者であり、順天堂大学に日本初の便秘外来を開設した腸のスペシャリストでもある。著書に「腸内環境と自律神経を整えれば病気知らず 免疫力が10割」(プレジデント社)、「病気知らずの医者がやっている 免疫力を高める最高の方法」(宝島社)、「医者が考案した『長生きみそ汁』」(アスコム)など多数。

(1)「免疫」ってそもそも何?体内でウイルスや細菌と戦う免疫細胞とは

●免疫は自然に備わった防御システム

免疫とは「疫(えき)から免れる(まぬがれる)」、すなわち病気から逃れることを意味する言葉です。私たちの体には、病気から身を守るための様々なシステムが備わっていますが、免疫はその代表であり、自然に備わった大切な防御システムといえます。

免疫のシステムは、体内に侵入した細菌やウイルスなどの病原体を “異物”と認識して攻撃することで、体を正常に保ちます。こうした免疫反応を主に担っているのが、白血球を中心とする「免疫細胞」です。免疫のシステムはたくさんの種類の免疫細胞の連係プレーによって成り立っています。

●自然免疫と獲得免疫

自然免疫と獲得免疫 自然免疫と獲得免疫

免疫には大きく分けて、生まれつき備わった「自然免疫」と、後天的に獲得する「獲得免疫」の2つがあり、どちらも私たちにとって大切なものです。この2つの免疫では、それぞれ特徴的な免疫細胞が活躍します。

自然免疫

自然免疫は生まれた時からもっている免疫で、外部から侵入した細菌やウイルス、がん細胞などを「非自己」と認識して排除する機能があります。主に次のような免疫細胞がかかわっています。

・好中球…白血球の50%以上を占める細胞で、主に細菌などの病原菌を食べて殺菌する。異物を除去する力が強く、感染が起こるとすぐにその場所に動員される。
・マクロファージ…白血球の成分の1つ。体に侵入してきた病原体を食べて排除する。また、異物を取り込んで消化すると、その情報を「抗原」として司令塔役のヘルパーT細胞に伝える。
・NK細胞(ナチュラルキラー細胞)…白血球の成分の1つで、リンパ球と呼ばれる細胞の一種。血液にのって体内をパトロールし、ウイルスやがん細胞などの異物がいないか常にチェックし、異物を見つけると攻撃・排除する。

獲得免疫

獲得免疫は一度体内に侵入した異物(抗原)を記憶し、2度目以降に侵入した時に攻撃する機能があります。一度はしかなどにかかると再度かかりにくくなったり、感染しても軽く済んだりするのは獲得免疫によるものです。獲得免疫には主に次のような免疫細胞がかかわっています。

・ヘルパーT細胞…リンパ球の一種。体内に侵入した異物が危険なものかどうか判断し、攻撃の作戦を練る司令塔のような存在。サイトカインという物質を産生してB細胞を活性化したり、抗体の産生を助けたりもする。
・キラーT細胞…ヘルパーT細胞から指令を受けて活性化し、ウイルスなどの病原体を攻撃して増殖を防ぐ。
・B細胞…リンパ球の約20~40%を占める細胞で、ヘルパーT細胞と共に異物が危険なものかどうか判断し、抗体をつくって病原体と戦う。
・樹状細胞…全身に存在し、細菌やウイルス、がん細胞などを食べて除去する。また、異物の情報をいち早くキャッチして、他の免疫細胞に知らせる。
・レギュラトリーT細胞…B細胞の活性化を抑えたり、サイトカインの産生を抑制したりして、免疫の暴走(過剰な働き)を抑える。

(2)免疫細胞の約7割は「腸」に生息している!

免疫細胞の約7割は「腸」に生息している! 免疫細胞の約7割は「腸」に生息している!

●腸は最大の免疫器官
腸と聞いて多くの人が思い浮かべるのは、“食べ物を消化・吸収する器官”というイメージかもしれません。しかし、近年の研究で、腸が免疫の働きにおいても中心的な役割を果たす器官であることが明らかになってきました。

免疫システムを担う免疫細胞の約7割は、腸に生息しています。このことが、“腸は最大の免疫器官”と呼ばれる理由です。

それではなぜこれほど多くの免疫細胞が腸に集中しているのでしょうか?

消化管は口から始まって、食道、胃、十二指腸、小腸、大腸、肛門まで1つの管でつながっています。この管は体の内側と思われがちですが、管の中心の空洞は空間的には外界と接していることから、実は“体の外側”といえます。

そのため腸は食べ物だけでなく、口から一緒に侵入したウイルスや病原菌も取り込んでしまう危険に常にさらされています。もし腸が入ってきたものを全てそのまま通過させ吸収してしまうとしたら、有害な物質まで吸収されて健康を害することになります。

こうした病原体の侵入をブロックするために、腸には様々な免疫細胞や、ウイルスや病原菌と戦う抗体が大量に存在し、体を守っているのです。腸に備わっているこうした免疫機能を “腸管免疫”と呼んでいます。


●免疫の主な担い手は小腸
身体全体の免疫細胞の5割が小腸に、2割が大腸に存在すると考えられています。小腸の腸壁やその粘膜の下には「パイエル板」と呼ばれる免疫器官があり、そこにはT細胞やB細胞、NK細胞など多くの免疫細胞が集まって、病原体やがん細胞を退治する役割を果たしています。有害物質を迎え撃つ“免疫の前線基地”ともいえるのが、小腸のパイエル板です。

免疫の主な担い手は小腸 免疫の主な担い手は小腸

●大腸の腸内細菌が免疫細胞をバックアップ
一方、大腸にはパイエル板はありませんが、膨大な量の腸内細菌がすみ、「腸内フローラ」と呼ばれる集合体を形成しています。近年、この腸内細菌と腸管免疫は相互に影響し合う深い関係にあることが明らかになりました。

腸内細菌のバランスがよいと、免疫細胞が活性化されて病原体と戦う抗体が効率よく生み出されるようになり、免疫の調整機能もよく働くようになります。逆に、腸管免疫がよく働いていると、腸内細菌の多様性(種類が多いこと)が増し、バランスがよくなります。つまり、腸内環境を整えることが免疫力のアップにつながるのです。

(3)免疫力にかかわる「腸内細菌」の驚くべき働き

免疫力にかかわる「腸内細菌」の驚くべき働き 免疫力にかかわる「腸内細菌」の驚くべき働き

●大腸には100兆個もの腸内細菌が
腸内細菌は、その名の通り腸内に生息する細菌のことです。腸内細菌の約9割は大腸に、残りの約1割は小腸にすんでいます。

私たちの腸壁の粘膜には1000種類以上、およそ100兆個もの腸内細菌が生息し、その総重量は1.5~2キログラムにものぼります。大便のおよそ3分の1はこうした腸内細菌の死骸です。

「腸内フローラ」は様々な種類の腸内細菌がグループごとにまとまって群生している様子をお花畑に例えて名づけられたもので「腸内細菌叢(ちょうないさいきんそう)」とも呼ばれています。叢は草むらを意味します。


●腸内細菌はバランスと多様性が大事

腸内細菌はバランスと多様性が大事 腸内細菌はバランスと多様性が大事

腸内細菌は、その働きにより大きく善玉菌、悪玉菌、日和見菌の3種類に分類されています。

善玉菌…腸内環境をよくし、免疫細胞にもよい影響を与えて健康増進に役立つ働きをする。代表的なものに乳酸菌、ビフィズス菌、酪酸菌など。

悪玉菌…腸内環境を悪化させたり有害物質をつくり出したりして、病気や老化の原因となる。代表的なものに大腸菌(有毒株)、ウエルシュ菌、ブドウ球菌など。

日和見菌…善玉菌、悪玉菌のうち優勢なほうに加勢する。代表的なものにバクテロイデス、大腸菌(無毒株)、連鎖球菌など。

一人ひとり顔が違うように、腸内細菌の構成は人それぞれで、同じ人でも食べたものや生活習慣によって日々変化します。また、年齢によっても変わってきます。

悪玉菌は悪者扱いされがちですが、一定の割合で存在することで健康維持に必要な役割を果たしています。大切なのはバランスで、腸内フローラの理想的なバランスは、

善玉菌、悪玉菌、日和見菌。腸内フローラの理想的なバランス 善玉菌、悪玉菌、日和見菌。腸内フローラの理想的なバランス

善玉菌:日和見菌:悪玉菌=2:7:1
とされています。

また、最近特に重要視されるようになってきたのが、腸内細菌の多様性です。多種多様な菌が存在することで、仮に一部の細菌がダメージを受けても他の細菌が協力して腸内環境を良好に保つことができます。このように腸内細菌のバランスがよく、多様性に富んでいることを“腸内環境がよい”状態といいます。


●「短鎖脂肪酸」が免疫力アップに貢献

善玉菌の重要な役割の1つに、“体にとって有用な物質をつくり出す”ことが挙げられます。その中で、近年、健康長寿に役立つ成分として注目を浴びているのが、「短鎖脂肪酸(たんさしぼうさん)」です。


短鎖脂肪酸は善玉菌が行う発酵によってつくられる物質で、代表的な短鎖脂肪酸に酪酸(らくさん)、酢酸(さくさん)、プロピオン酸などがあります。


短鎖脂肪酸は免疫とかかわりが深く、主に次のような働きにより免疫力アップによい影響を及ぼすと考えられています。


・腸内を弱酸性に保って悪玉菌の繁殖を抑える
・腸粘膜を丈夫にして腸のバリア機能を高める
・過剰な免疫反応を抑える制御性T細胞を増やして免疫機能を調整し、炎症性腸疾患やアレルギー性疾患を抑える

この他にも短鎖脂肪酸には、腸のぜん動運動(内容物を送り出す運動)を促進する働きや、大腸粘膜の血流を増やす働き、脂肪の蓄積を抑える働き、過剰な食欲を抑える働きなどが報告され、活発な研究が進められています。

 

●腸内細菌はメンタルにも影響する

腸内細菌はメンタルにも影響する 腸内細菌はメンタルにも影響する

“笑うと免疫力がアップする”といわれるように、免疫力がメンタルに左右されることはよく知られた話です。腸は脳(心)とのかかわりも深く、脳と腸が双方向に影響し合うことを「脳腸相関」といいます。

腸内細菌は、”幸せホルモン“とも呼ばれるセロトニン、ドーパミンなどの神経伝達物質の生成にもかかわっています。神経伝達物質は神経細胞間の情報伝達を担っている物質で、例えばセロトニンは感情のコントロールや精神の安定に関係し、不足するとうつ病を発症する原因ともなります。

幸せをしっかり感じることができ、ストレスに負けない精神を保つことは、免疫力アップにつながります。そのためにも、腸内環境を整えることが大事なのです。

(4)まとめ

腸内細菌は実に様々な働きで私たちの健康を守っています。免疫力をアップするためには、腸内環境をよい状態に保ち、免疫細胞や短鎖脂肪酸、神経伝達物質などの産生や活性化に役立つ「善玉菌」の割合を高めることが大切です。