Hello Challengers! インタビュー企画 Hello Challengers! インタビュー企画
国立天文台 教授/台長特別補佐、総合研究大学院大学天文科学コース 教授 阪本 成一 国立天文台 教授/台長特別補佐、総合研究大学院大学天文科学コース 教授 阪本 成一

Challenger ㉖

Challenger ㉖

はじめての挑戦を、とことん、楽しく。

はじめての挑戦を、とことん、楽しく。

株式会社QPS研究所 代表取締役社長 CEO 大西 俊輔

株式会社QPS研究所 代表取締役社長 CEO 大西 俊輔

九州大学大学院航空宇宙工学専攻博士課程修了。博士(工学)。
大学院在籍時よりQSAT-EOS(九州大学を中心とした九州地区の大学・企業による小型衛星プロジェクト)の学生プロジェクトリーダーとしてシステム全般の指揮ならびに大学・企業メンバーのマネジメントを行い、衛星打上げを成功に導く。
2013年10月有限会社QPS研究所に主任研究員として入社。2014年4月に代表取締役社長に就任し現在に至る。学生時代から現在までに十件超の小型人工衛星開発プロジェクトに従事。

九州大学大学院航空宇宙工学専攻博士課程修了。博士(工学)。
大学院在籍時よりQSAT-EOS(九州大学を中心とした九州地区の大学・企業による小型衛星プロジェクト)の学生プロジェクトリーダーとしてシステム全般の指揮ならびに大学・企業メンバーのマネジメントを行い、衛星打上げを成功に導く。
2013年10月有限会社QPS研究所に主任研究員として入社。2014年4月に代表取締役社長に就任し現在に至る。学生時代から現在までに十件超の小型人工衛星開発プロジェクトに従事。

2024.7.3

2024.7.3

2024.7.3

2024.7.3

■ブラックホールに吸い込まれる宇宙船

--大西さんは、小さい頃どのようにして宇宙に興味を持たれたのですか?
小学校低学年の頃だったでしょうか、宇宙に関する図鑑を読んだんですね。その中にブラックホールが出てきました。「何でも吸い込むもの」 があるんだな、と。不思議なんですが、これを今でも鮮明に覚えています。
宇宙船がブラックホールに吸い込まれていくというような記述もあり、子ども心に怖いと思っていました。

--ものづくりはお好きだったのでしょうか?
はい。小学校の頃から好きでした。小学校高学年のときには、ペットボトルロケット教室にも参加しました。ものを作るのが好きだったのですごく面白そうだと思ったのがきっかけでした。その教室では、講師の方々がやってきて、彼らが専用キットを組み立てるのを見ながら、子供たちも真似して作っていくというものでした。私の制作はうまくいきませんでしたが、専用キットのロケットがよく飛ぶのを見て、自分ももっと飛ぶロケットを作りたいと強く思いましたね。その後も、家でひとりで黙々と改善や工夫を凝らしては飛ばし、ということを繰り返しやっていました。
専用キットは買い方がわからなかったので自分で手作りして作っていたのですが、実はこのロケット作りは「点火」 にあたる部分が一番難しく、この部分の部品になるようなものはなかなか身の回りにはなかったのです。最終的にいろいろ考えた結果、化学実験で使う薬剤瓶のゴム栓に穴を開けてペットボトルの口にはめこみ、そこから自転車の空気入れで空気を入れる方法にたどり着き、それを実験できたときは嬉しかったです。

--よくそこまで調べましたね…
はい。小学生にしてはいろいろと考えたと思います。

--意外なのは、作ろうとしたのは衛星ではなく、ロケットの方だったのですね。
そうですね。当時の私にとっては、宇宙へのあこがれがあって作れるものといえばロケットで、衛星に対してそのようなイメージはまだありませんでした。ロケットは飛んでいきますから、イメージしやすかったんでしょうね。そこから、「宇宙」と「ものづくり」 は結び付けられるんだということに気づき、大学で工学の道に進んだのです。


■博士号の重みを知る

--その後、研究の道に入られますが、どのような理由からでしょうか?
研究の道に進んで大学の教員になるのもいいな、というのが最初の理由でした。しかし、ひとつ大きな岐路として、海外の人とやり取りする機会が増えてきた際に、博士号を持っているかどうかで決定的な違いがある、ということがわかりました。博士号を持っていると肩書も 「Mr.」(ミスター) ではなく、「Dr.」  (ドクター) 誰々、になるんですよね。自分のやりたい研究を続けていく上では、博士号は必要となってくる資格だろうな、と感じました。
この件によらず、実際に博士課程で知り合う方々との関係性は今後も重要になるだろうということを思っていましたし、今振り返ってもそれは正しかったのではと思っています。

--博士号は、八坂哲雄先生 (現・九州大学名誉教授、QPS研究所創設者の1人) の元で取得されたのでしょうか?
いえ、別の先生でした。修士課程は八坂先生が元いた研究室で研究し、博士課程では別の先生の元に就き、宇宙の研究からは少し離れていました。とはいえ宇宙や八坂先生とは、QSAT-EOSという大学衛星プロジェクトでつながっていました。


■研究者、そして、ベンチャーへの道

--こういうとなんではありますが、博士号を取得し、さらにそこからベンチャー企業へ入社するというのは、少なくとも当時の日本では比較的珍しいキャリアのように思います。
修士・博士課程を経るうえで、当初思っていた「教員になるのもいいな」というのはそんなに簡単なことではなく、その先もずっと研究を続けていくことの大変さも身にしみて理解できるようになっていましたし、どこかで働くという選択肢も頭の中にありました。
一方で、ちょうど社会的にも宇宙ベンチャーで起業するという流れも出てきていました。例えば<a href=”https://www.axelspace.com/ja/”>アクセルスペース</a>のような会社ですね。

--確かに、特に2010年代からは、宇宙開発に取り組むのにベンチャー企業を起こす流れも普通になってきましたね。
当時の私は先ほどご説明したQSAT-EOSという大学衛星プロジェクトに携わっていたのですが、そこでは大学関係者や学生、地場企業の方々とが膝を突き合わせて開発を進めていくんですね。この産学連携の体制、そして北部九州宇宙クラスターの土台を作ったのが八坂先生方であり、QPS研究所でした。
私は学生時代から日本各地のいくつもの大学衛星プロジェクトに携わらせていただく機会をいただいていましたが、十数もの地場のものづくり企業が開発の早い段階から一緒になって宇宙機を作っていくような関係性は、他ではなかなか見られないものかと思いました。しかし、当時のQPS研究所は定年後の先生方3名で構成されていましたので、このままだとこの関係性も失われてしまうのではないか、と思っていました。
そこで私は、この繋がりをこの先も継続し、九州の宇宙産業を発展させるために、「QPS研究所に入社したいです!」と先生方に直訴しました。その反応は三者三様でしたが、「人生は一度きり、だからこそ先生方の活動を引き継ぎたい」という気持ちをお伝えして、最終的には入社を認めて頂けました。

--人生一度きり…いい言葉ですよね
少し話が前後しますが、QPS研究所は八坂先生達によって2005年に創業されているので、宇宙ベンチャーとしてはかなり早い方ですね。その後、私が入社したのは2013年になります。


■電波を使って、いつでも、どこでも観測が可能に

--現在のQPS研究所が行っている事業について、解説していただけますか?
QPS研究所では、合成開口レーダー (SAR: サー) [注1] という技術を使って、電波で地球を観測する小型SAR衛星「QPS-SAR」を開発・運用しています。
分解能46センチで地表を観測することができる、小型かつ軽量な人工衛星です。このQPS-SARを最終的には36機配備し、地球のほぼどこでも約10分間隔の準リアルタイムで地球観測を目指す「QPS-SARプロジェクト」を進めています。

■ブラックホールに吸い込まれる宇宙船

--大西さんは、小さい頃どのようにして宇宙に興味を持たれたのですか?
小学校低学年の頃だったでしょうか、宇宙に関する図鑑を読んだんですね。その中にブラックホールが出てきました。「何でも吸い込むもの」 があるんだな、と。不思議なんですが、これを今でも鮮明に覚えています。
宇宙船がブラックホールに吸い込まれていくというような記述もあり、子ども心に怖いと思っていました。

--ものづくりはお好きだったのでしょうか?
はい。小学校の頃から好きでした。小学校高学年のときには、ペットボトルロケット教室にも参加しました。ものを作るのが好きだったのですごく面白そうだと思ったのがきっかけでした。その教室では、講師の方々がやってきて、彼らが専用キットを組み立てるのを見ながら、子供たちも真似して作っていくというものでした。私の制作はうまくいきませんでしたが、専用キットのロケットがよく飛ぶのを見て、自分ももっと飛ぶロケットを作りたいと強く思いましたね。その後も、家でひとりで黙々と改善や工夫を凝らしては飛ばし、ということを繰り返しやっていました。
専用キットは買い方がわからなかったので自分で手作りして作っていたのですが、実はこのロケット作りは「点火」 にあたる部分が一番難しく、この部分の部品になるようなものはなかなか身の回りにはなかったのです。最終的にいろいろ考えた結果、化学実験で使う薬剤瓶のゴム栓に穴を開けてペットボトルの口にはめこみ、そこから自転車の空気入れで空気を入れる方法にたどり着き、それを実験できたときは嬉しかったです。

--よくそこまで調べましたね…
はい。小学生にしてはいろいろと考えたと思います。

--意外なのは、作ろうとしたのは衛星ではなく、ロケットの方だったのですね。
そうですね。当時の私にとっては、宇宙へのあこがれがあって作れるものといえばロケットで、衛星に対してそのようなイメージはまだありませんでした。ロケットは飛んでいきますから、イメージしやすかったんでしょうね。そこから、「宇宙」と「ものづくり」 は結び付けられるんだということに気づき、大学で工学の道に進んだのです。


■博士号の重みを知る

--その後、研究の道に入られますが、どのような理由からでしょうか?
研究の道に進んで大学の教員になるのもいいな、というのが最初の理由でした。しかし、ひとつ大きな岐路として、海外の人とやり取りする機会が増えてきた際に、博士号を持っているかどうかで決定的な違いがある、ということがわかりました。博士号を持っていると肩書も 「Mr.」(ミスター) ではなく、「Dr.」  (ドクター) 誰々、になるんですよね。自分のやりたい研究を続けていく上では、博士号は必要となってくる資格だろうな、と感じました。
この件によらず、実際に博士課程で知り合う方々との関係性は今後も重要になるだろうということを思っていましたし、今振り返ってもそれは正しかったのではと思っています。

--博士号は、八坂哲雄先生 (現・九州大学名誉教授、QPS研究所創設者の1人) の元で取得されたのでしょうか?
いえ、別の先生でした。修士課程は八坂先生が元いた研究室で研究し、博士課程では別の先生の元に就き、宇宙の研究からは少し離れていました。とはいえ宇宙や八坂先生とは、QSAT-EOSという大学衛星プロジェクトでつながっていました。


■研究者、そして、ベンチャーへの道

--こういうとなんではありますが、博士号を取得し、さらにそこからベンチャー企業へ入社するというのは、少なくとも当時の日本では比較的珍しいキャリアのように思います。
修士・博士課程を経るうえで、当初思っていた「教員になるのもいいな」というのはそんなに簡単なことではなく、その先もずっと研究を続けていくことの大変さも身にしみて理解できるようになっていましたし、どこかで働くという選択肢も頭の中にありました。
一方で、ちょうど社会的にも宇宙ベンチャーで起業するという流れも出てきていました。例えば<a href=”https://www.axelspace.com/ja/”>アクセルスペース</a>のような会社ですね。

--確かに、特に2010年代からは、宇宙開発に取り組むのにベンチャー企業を起こす流れも普通になってきましたね。
当時の私は先ほどご説明したQSAT-EOSという大学衛星プロジェクトに携わっていたのですが、そこでは大学関係者や学生、地場企業の方々とが膝を突き合わせて開発を進めていくんですね。この産学連携の体制、そして北部九州宇宙クラスターの土台を作ったのが八坂先生方であり、QPS研究所でした。
私は学生時代から日本各地のいくつもの大学衛星プロジェクトに携わらせていただく機会をいただいていましたが、十数もの地場のものづくり企業が開発の早い段階から一緒になって宇宙機を作っていくような関係性は、他ではなかなか見られないものかと思いました。しかし、当時のQPS研究所は定年後の先生方3名で構成されていましたので、このままだとこの関係性も失われてしまうのではないか、と思っていました。
そこで私は、この繋がりをこの先も継続し、九州の宇宙産業を発展させるために、「QPS研究所に入社したいです!」と先生方に直訴しました。その反応は三者三様でしたが、「人生は一度きり、だからこそ先生方の活動を引き継ぎたい」という気持ちをお伝えして、最終的には入社を認めて頂けました。

--人生一度きり…いい言葉ですよね
少し話が前後しますが、QPS研究所は八坂先生達によって2005年に創業されているので、宇宙ベンチャーとしてはかなり早い方ですね。その後、私が入社したのは2013年になります。


■電波を使って、いつでも、どこでも観測が可能に

--現在のQPS研究所が行っている事業について、解説していただけますか?
QPS研究所では、合成開口レーダー (SAR: サー) [注1] という技術を使って、電波で地球を観測する小型SAR衛星「QPS-SAR」を開発・運用しています。
分解能46センチで地表を観測することができる、小型かつ軽量な人工衛星です。このQPS-SARを最終的には36機配備し、地球のほぼどこでも約10分間隔の準リアルタイムで地球観測を目指す「QPS-SARプロジェクト」を進めています。

地元のパートナー企業との開発風景の写真 地元のパートナー企業との開発風景の写真

地元のパートナー企業との開発風景

地元のパートナー企業との開発風景

--SARというのはどんな技術なのでしょう? お子さんにもわかりやすく説明していただけますか?
SARは電波を使った観測手法です。地球観測衛星にはカメラと同じ原理で宇宙から写真を撮る光学衛星もありますが、SARは私たちが見る光や赤外線などではなく、電波を使うというところに特徴がありますね。このSARを子どもにもわかりやすくは難しいですね (笑)。

--すいません、ちょっと難しいご質問でしたね (笑)。それでは、SAR観測の利点をお願いします。
大きなメリットは、天候・昼夜の関係なくいつでも観測ができるということです。電波は雲を突き抜けますし、光も不要なので昼も夜も関係ありません。どんな場所でもどんな時間でも、必要なときに観測したいエリアを観測できるのです。

--しかも分解能が高い。私は、実はメートル単位の分解能の頃しか知りませんでした。
46センチですね。簡単に解説すると、観測した画像の1つの点 (ピクセル) が地上の46センチに相当するということです。
このくらい高い分解能になってくると、これまで見えてこなかったいろいろなものが見えてきます。例えば鉄塔や電線。これまではみえづらかったのですが、我々の衛星では捉えられます。
また、試験観測で横浜を観測したときには、港に停まっている車が一台一台はっきりと見えました。

--QPS研究所のSAR衛星の売りはどのような点でしょうか?
これまでは大型にならざるを得なかったSAR衛星を軽量・小型化したことですね。SAR衛星は観測のために大型のアンテナが必要になるのですが、当社は軽量な素材で折りたたみ可能なアンテナを開発しました。このアンテナは、打上げ時には小型衛星に小さく収納でき、打上げ後には宇宙空間で大きく展開します。また、軽量・小型化できたので打上げ費用も安く済みます。大型衛星に比べて劇的にコストを抑えられたことで、たくさんのQPS-SARを製造して打ち上げることができるようになり、機数が多いと観測の回数・頻度が向上する、というメリットが生じます。

[注1]  SAR… 「サー」 と読む。日本語では 「合成開口レーダー」 と訳する。Synthetic Aperture Radarの略。上空の衛星からマイクロ波を地上に発射し、その反射波を衛星のレーダーで捉える。このとき、受信した電波のデータを合成することで仮想的にいくつものアンテナでデータを捉えた (大きな開口径を持つレーダーで受信したことになる) 形にデータを処理することで、より精密に対象物を観測することができる。電波を使うため、天候や時間 (昼夜) に左右されずに観測できることが利点である。


■とことん調べることの重要性

--ところで、どうして小型SAR衛星のプロジェクトを進めようとしたのでしょうか? 普通地球観測というと、我々がいちばんイメージしやすいのは可視光のデータだと思いますが…。
私の入社時の話に戻るのですが、恩師たちの志を継いでこの地に宇宙産業を根付かせていくためには、世界でも類のない魅力的なプロジェクトを立ち上げて人材を九州に集め、単発ではなく継続的なビジネスを興す必要があると考えていました。
そこでQPS研究所へ入社した後に、自社で立ち上げられる事業を調べることにしました。地球観測についてもいろいろと調べていたのですが、光学衛星による地球観測はすでに大型も小型もあり、世界でも何社も先行している状態でした。
一方で、小型のSAR衛星は誰もやっていなかった。ただ、いろいろ調べていくと、小型化が難しい理由がいくつかあり、それを克服するのに大きなパラボラアンテナが必要なことがわかってきました。

--ここはなかなか難しいと。
そうですね、ただ、このときは博士課程在籍時の経験が活きました。
当時の研究テーマは液体の沸騰現象だったのですが、この分野は不確実性が大きく、わかりにくいことが多い。液体が気体になる現象って結構複雑なんですよ。それを実験的に証明していくことが私の研究テーマでした。いろいろな分野の論文を読み漁るなかで驚いたのは、論文の中に出てくる数字に小数点が5桁も6桁もついていること。「なんだ、これは…」 と。そして、1900年代前半の結果や理論が今でも参照されている。今でも解明されていない部分があるんですよね。

--いや、これはすごい…
今でもまだまだわからないことも多いし、難しい。昔の論文から読みはじめて今の論文に至る。でも、そういうことを調べなければいけなくなったので、リサーチ力はしっかりつきました。小さなところから派生していろいろなところへ飛んで、それを知るのがまた楽しいと感じていましたし、そういう性格なのかもしれません。
そんな経験からか、沢山の論文を読むことはまったく苦ではなく、小型SAR衛星の実現可能性について文献調査を進めていくうちに「大きなアンテナを小さく折りたたむことができたら、小型のSAR衛星が実現できるのではないか」と、収納可能なアンテナを構想しました。

--八坂先生の知見も生かされたのではないでしょうか。
はい。八坂先生からはそのようなアンテナは 「できるよ」 という言葉をもらいまして、大きな力になりましたね。

--SARというのはどんな技術なのでしょう? お子さんにもわかりやすく説明していただけますか?
SARは電波を使った観測手法です。地球観測衛星にはカメラと同じ原理で宇宙から写真を撮る光学衛星もありますが、SARは私たちが見る光や赤外線などではなく、電波を使うというところに特徴がありますね。このSARを子どもにもわかりやすくは難しいですね (笑)。

--すいません、ちょっと難しいご質問でしたね (笑)。それでは、SAR観測の利点をお願いします。
大きなメリットは、天候・昼夜の関係なくいつでも観測ができるということです。電波は雲を突き抜けますし、光も不要なので昼も夜も関係ありません。どんな場所でもどんな時間でも、必要なときに観測したいエリアを観測できるのです。

--しかも分解能が高い。私は、実はメートル単位の分解能の頃しか知りませんでした。
46センチですね。簡単に解説すると、観測した画像の1つの点 (ピクセル) が地上の46センチに相当するということです。
このくらい高い分解能になってくると、これまで見えてこなかったいろいろなものが見えてきます。例えば鉄塔や電線。これまではみえづらかったのですが、我々の衛星では捉えられます。
また、試験観測で横浜を観測したときには、港に停まっている車が一台一台はっきりと見えました。

--QPS研究所のSAR衛星の売りはどのような点でしょうか?
これまでは大型にならざるを得なかったSAR衛星を軽量・小型化したことですね。SAR衛星は観測のために大型のアンテナが必要になるのですが、当社は軽量な素材で折りたたみ可能なアンテナを開発しました。このアンテナは、打上げ時には小型衛星に小さく収納でき、打上げ後には宇宙空間で大きく展開します。また、軽量・小型化できたので打上げ費用も安く済みます。大型衛星に比べて劇的にコストを抑えられたことで、たくさんのQPS-SARを製造して打ち上げることができるようになり、機数が多いと観測の回数・頻度が向上する、というメリットが生じます。

[注1]  SAR… 「サー」 と読む。日本語では 「合成開口レーダー」 と訳する。Synthetic Aperture Radarの略。上空の衛星からマイクロ波を地上に発射し、その反射波を衛星のレーダーで捉える。このとき、受信した電波のデータを合成することで仮想的にいくつものアンテナでデータを捉えた (大きな開口径を持つレーダーで受信したことになる) 形にデータを処理することで、より精密に対象物を観測することができる。電波を使うため、天候や時間 (昼夜) に左右されずに観測できることが利点である。


■とことん調べることの重要性

--ところで、どうして小型SAR衛星のプロジェクトを進めようとしたのでしょうか? 普通地球観測というと、我々がいちばんイメージしやすいのは可視光のデータだと思いますが…。
私の入社時の話に戻るのですが、恩師たちの志を継いでこの地に宇宙産業を根付かせていくためには、世界でも類のない魅力的なプロジェクトを立ち上げて人材を九州に集め、単発ではなく継続的なビジネスを興す必要があると考えていました。
そこでQPS研究所へ入社した後に、自社で立ち上げられる事業を調べることにしました。地球観測についてもいろいろと調べていたのですが、光学衛星による地球観測はすでに大型も小型もあり、世界でも何社も先行している状態でした。
一方で、小型のSAR衛星は誰もやっていなかった。ただ、いろいろ調べていくと、小型化が難しい理由がいくつかあり、それを克服するのに大きなパラボラアンテナが必要なことがわかってきました。

--ここはなかなか難しいと。
そうですね、ただ、このときは博士課程在籍時の経験が活きました。
当時の研究テーマは液体の沸騰現象だったのですが、この分野は不確実性が大きく、わかりにくいことが多い。液体が気体になる現象って結構複雑なんですよ。それを実験的に証明していくことが私の研究テーマでした。いろいろな分野の論文を読み漁るなかで驚いたのは、論文の中に出てくる数字に小数点が5桁も6桁もついていること。「なんだ、これは…」 と。そして、1900年代前半の結果や理論が今でも参照されている。今でも解明されていない部分があるんですよね。

--いや、これはすごい…
今でもまだまだわからないことも多いし、難しい。昔の論文から読みはじめて今の論文に至る。でも、そういうことを調べなければいけなくなったので、リサーチ力はしっかりつきました。小さなところから派生していろいろなところへ飛んで、それを知るのがまた楽しいと感じていましたし、そういう性格なのかもしれません。
そんな経験からか、沢山の論文を読むことはまったく苦ではなく、小型SAR衛星の実現可能性について文献調査を進めていくうちに「大きなアンテナを小さく折りたたむことができたら、小型のSAR衛星が実現できるのではないか」と、収納可能なアンテナを構想しました。

--八坂先生の知見も生かされたのではないでしょうか。
はい。八坂先生からはそのようなアンテナは 「できるよ」 という言葉をもらいまして、大きな力になりましたね。

創業者の八坂先生(左)と大西社長(右)のツーショット写真 創業者の八坂先生(左)と大西社長(右)のツーショット写真

創業者の八坂先生(左)と大西社長(右)のツーショット

創業者の八坂先生(左)と大西社長(右)のツーショット

■研究と企業経営の両立

--大西さんは研究者である一方、QPS研究所の代表取締役社長 CEOとして経営者でもあります。両立するコツというのはあるのでしょうか?
多様性豊かな得意分野を持つメンバーが支えてくれていることでしょうか。たとえば顧問にベンチャーキャピタル出身者がいて、経営や資金調達などに強い。
当社は技術がベースにありますが、そこにいろいろなカラーが組み合わさって、会社の事業が発展してきているのかなと思います。

--多くの宇宙ベンチャー企業が東京を拠点とする中、福岡をベースとしているのも異色ですね。
福岡は東京に比べると狭いので、逆にいろいろな人がいてすぐに会えるんですね。宇宙関係のイベントに呼ばれて話したことがあるのですが、小さいイベントで人数も少なかったこともあって、様々なつながりが作れました。狭いからこそ、みんなが集まってくるんですね。

--ただ、ベンチャーだからこそ、大変なことも多かったのではないでしょうか。
はい。いっぱいありました。技術的なところでいうと、まず1号機は画像が取得できなかったことはとても強く記憶に残っています。その結果を受けて2号機は、限られた時間の中で結果を出す必要がありましたが、無事に初画像が取得できたときの喜びはひとしおでした。大変なことばかりですが、このような喜びややりがいが感じられるからこそ、衛星開発を続けていけているのだと思います。


■はじめてのことを、楽しく、とことん突き詰める

--これから大西さんが成し遂げたいことは何がありますでしょうか?
まずは36機の衛星コンステレーション[注2]を作り上げることですね。準リアルタイム地球観測によって得られるデータで、人々の生活を豊かにする。そして九州に宇宙産業を根付かせることかと思っています。そのためにも継続して衛星作りをすることはすごく大事だと思っています。

--私自身は小型衛星開発の歴史を知っているので、九州と小型衛星が結びつくのですが、一般の方にとってはそうでもない…
おっしゃるとおり、もっと認知度を上げていければと思っています。九州には宇宙工学を教える大学があり、ロケットの射場があり、そして我々のように宇宙ビジネスを手掛ける企業もいます。そして、我々以外にも宇宙ビジネスを手掛ける会社がこの地に増えていくことで、九州には宇宙産業の土壌がある、という認識を作っていけたらと思いますし、いろいろな方が九州で宇宙開発を学びたい、九州で宇宙の仕事に携わりたいというふうになっていくと思っています。しっかりやっていけば必ず実現すると信じています。

--今、子どもたちの 「なりたい職業」 にも宇宙ベンチャーが入ったりしています。はじめてのことへの挑戦について、ぜひご意見を伺えればと。
宇宙開発は、そもそもはじめてのことが多いです。小型SAR衛星もまさにはじめてのことでした。これから先、月で生活したり、火星に行ったりするのも、はじめてのことだらけかと思います。はじめてのことへの挑戦を楽しく進めていく。そういうことが好きな方にはぜひ宇宙業界に来て頂ければと思います。目標を実行していくことに向けて頑張る。小さなことでも徹底的に調べる。とことんやり続けることが重要なのかと思っています。

[注2]  衛星コンステレーション…複数の人工衛星によって、高頻度な地球観測を可能とするシステム。(コンステレーションは「星座」の意。)

■研究と企業経営の両立

--大西さんは研究者である一方、QPS研究所の代表取締役社長 CEOとして経営者でもあります。両立するコツというのはあるのでしょうか?
多様性豊かな得意分野を持つメンバーが支えてくれていることでしょうか。たとえば顧問にベンチャーキャピタル出身者がいて、経営や資金調達などに強い。
当社は技術がベースにありますが、そこにいろいろなカラーが組み合わさって、会社の事業が発展してきているのかなと思います。

--多くの宇宙ベンチャー企業が東京を拠点とする中、福岡をベースとしているのも異色ですね。
福岡は東京に比べると狭いので、逆にいろいろな人がいてすぐに会えるんですね。宇宙関係のイベントに呼ばれて話したことがあるのですが、小さいイベントで人数も少なかったこともあって、様々なつながりが作れました。狭いからこそ、みんなが集まってくるんですね。

--ただ、ベンチャーだからこそ、大変なことも多かったのではないでしょうか。
はい。いっぱいありました。技術的なところでいうと、まず1号機は画像が取得できなかったことはとても強く記憶に残っています。その結果を受けて2号機は、限られた時間の中で結果を出す必要がありましたが、無事に初画像が取得できたときの喜びはひとしおでした。大変なことばかりですが、このような喜びややりがいが感じられるからこそ、衛星開発を続けていけているのだと思います。


■はじめてのことを、楽しく、とことん突き詰める

--これから大西さんが成し遂げたいことは何がありますでしょうか?
まずは36機の衛星コンステレーション[注2]を作り上げることですね。準リアルタイム地球観測によって得られるデータで、人々の生活を豊かにする。そして九州に宇宙産業を根付かせることかと思っています。そのためにも継続して衛星作りをすることはすごく大事だと思っています。

--私自身は小型衛星開発の歴史を知っているので、九州と小型衛星が結びつくのですが、一般の方にとってはそうでもない…
おっしゃるとおり、もっと認知度を上げていければと思っています。九州には宇宙工学を教える大学があり、ロケットの射場があり、そして我々のように宇宙ビジネスを手掛ける企業もいます。そして、我々以外にも宇宙ビジネスを手掛ける会社がこの地に増えていくことで、九州には宇宙産業の土壌がある、という認識を作っていけたらと思いますし、いろいろな方が九州で宇宙開発を学びたい、九州で宇宙の仕事に携わりたいというふうになっていくと思っています。しっかりやっていけば必ず実現すると信じています。

--今、子どもたちの 「なりたい職業」 にも宇宙ベンチャーが入ったりしています。はじめてのことへの挑戦について、ぜひご意見を伺えればと。
宇宙開発は、そもそもはじめてのことが多いです。小型SAR衛星もまさにはじめてのことでした。これから先、月で生活したり、火星に行ったりするのも、はじめてのことだらけかと思います。はじめてのことへの挑戦を楽しく進めていく。そういうことが好きな方にはぜひ宇宙業界に来て頂ければと思います。目標を実行していくことに向けて頑張る。小さなことでも徹底的に調べる。とことんやり続けることが重要なのかと思っています。

[注2]  衛星コンステレーション…複数の人工衛星によって、高頻度な地球観測を可能とするシステム。(コンステレーションは「星座」の意。)

<インタビューを終えて>

QPS研究所は 「九州に宇宙産業を根付かせる」 というミッションを掲げています。遡れば1995年、九州大学での小型衛星研究が始まりました。そこから約30年。今やベンチャー企業としての衛星開発が始まり、世の中を変えようとしています。その最先端で、若さを活かして新たな世界を切り拓こうとしている大西さん。リモートではありましたが、その意欲と熱気がネットワークを通して伝わってきました。
SARの原理…私も何度も説明しようとして挫折しました。結構難しいんですよね。思い切りさらっと申し上げると、衛星から電波を発射し、返ってきた電波を重ね合わせることで物体の像を描き出すという技術で、民間が行えるようになった地球観測では比較的新しい手法です。時間と場所を選ばないこの観測技術、しかもそれを小型衛星で実現するというチャレンジが、これから世界を変えていくかも知れない。QPS研究所、そして若き大西さんの挑戦をワクワクしながら応援しましょう。

<インタビューを終えて>

QPS研究所は 「九州に宇宙産業を根付かせる」 というミッションを掲げています。遡れば1995年、九州大学での小型衛星研究が始まりました。そこから約30年。今やベンチャー企業としての衛星開発が始まり、世の中を変えようとしています。その最先端で、若さを活かして新たな世界を切り拓こうとしている大西さん。リモートではありましたが、その意欲と熱気がネットワークを通して伝わってきました。
SARの原理…私も何度も説明しようとして挫折しました。結構難しいんですよね。思い切りさらっと申し上げると、衛星から電波を発射し、返ってきた電波を重ね合わせることで物体の像を描き出すという技術で、民間が行えるようになった地球観測では比較的新しい手法です。時間と場所を選ばないこの観測技術、しかもそれを小型衛星で実現するというチャレンジが、これから世界を変えていくかも知れない。QPS研究所、そして若き大西さんの挑戦をワクワクしながら応援しましょう。

Next Challenger

Next Challenger

お知らせ

お知らせ