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千葉工業大学 惑星探査研究センター主席研究員 荒井朋子 千葉工業大学 惑星探査研究センター主席研究員 荒井朋子

Challenger ⑮

宇宙の「石」に魅せられて

千葉工業大学 惑星探査研究センター 
主席研究員 荒井朋子

東京大学理学部地学科卒業、同大学大学院理学系研究科博士課程修了。専門は月惑星科学。大学院在学中、日本学術振興会特別研究員として NASAジョンソンスペースセンター及びカリフォルニア大学ロサンゼルス校に留学。学位取得後、宇宙開発事業団(現:宇宙航空研究開発機構) にて、国際宇宙ステーション(ISS)の生命科学実験棟や月探査衛星『かぐや』の開発に従事。退職後は国立極地研究所、東京大学総合研究博物館を 経て2009年4月の千葉工業大学惑星探査研究センター設立時より現職。ISSからの流星観測プロジェクト『メテオ』及び日本の次期小惑星探査計画 『DESTINY+(デスティニー・プラス)』の主任研究者。2013年に米国南極隕石探査に参加。2014年に小惑星22106Tomokoaraiが命名された。

2022.2.3

2022.2.3

──宇宙や科学の世界に興味をお持ちになったきっかけを教えてください。

子供の頃から、なんで地球にだけ生命がいるのだろう、火星や金星には、なぜ生命がないのだろう、といったようなことを考えていました。
父の影響もあってかSFも大好きで、そこが宇宙に惹かれるきっかけの一つになったのではないかと思います。
漠然と宇宙に興味をもって、中高一貫の学校に進みましたが、そこで高校に進学する前に中学卒業論文という課題がありました。そこで選んだテーマが ブラックホールでした。よくわからないながらも、専門雑誌や専門書を読み込んで、ひたすら数式を書き写して…横書き原稿用紙100枚を超える分量になったでしょうか。
評価はあまり良いものではなかったのですが、そこで火がついて宇宙関係の道に進もう!と決めました。


──これまで、どのような研究の道を進んでこられたのでしょうか?

大学では隕石に興味を持ちました。当時は、ブラックホールは数式だけ示されていて、形を見ることはできませんでした。隕石に出合った時、 「あ、見て触れられる宇宙ってあるんだ」って思いました。
大学院では、隕石やアポロ計画で回収された月の石などを調べる研究室へと進みました。そこで、太陽系の成り立ちを物質から探ることの面白さを知りました。 さらに月試料研究の本場である米国にも留学して、その道をより深く追求しました。
そして、こういった宇宙の物質を直接採取してくるサンプルリターンや宇宙探査に関わりたいとの思いが募って、宇宙開発事業団(現・JAXA)に入ることにしたのです。 入社後、希望していた月探査の部署ではなく、畑違いの国際宇宙ステーション(ISS)のプロジェクトに配属されました。その時は、つらいと感じたこともありましたが、 この時の経験は、その後ISS関連のプロジェクトを自分で進めていく際の大きな助けになりました。
ようやく、月探査のプロジェクトに異動できたとき、思いがけず妊娠、そして出産が重なりました。業務に育児、そして研究という3つの仕事を同時に行うことには無理があり、 JAXAを退職することにしました。ただ、自身が好きな研究を続けていく中で、2009年、惑星探査研究センター設立時に現在の千葉工業大学の職を得ることができました。

米国南極隕石探査隊に参加 米国南極隕石探査隊に参加

2013年には、学生時代からの念願叶って、米国の南極隕石探査隊に2か月間参加し、南極地点近くの氷河で、自らの手で隕石を回収することができました。


──研究の道で、つらかったこと、乗り越えてきた経験などがありましたら教えて下さい。

「メテオ」という国際宇宙ステーションにおける流星観測プロジェクトに関わったのですが、なんと2度にわたってロケットの不具合により打ち上げが失敗となりました。 現地で2度に渡りロケットの打ち上げ失敗を目の当たりにするという…。これはさすがに落ち込みました。でもすぐに気持ちを切り替えて、これまで時間に限りがあり、 間に合わなかったカメラの改修やレンズの変更などをするチャンスと前向きに捉え、3度目の打ち上げに備えました、ちなみに、3回目でロケットの打ち上げは成功しましたが、 その時は、現地には行きませんでした。

NASAジョンソンスペースセンターでの宇宙飛行による操作性確認を行う日米メテオプロジェクトチーム/ISSとの通信を祝うメテオチームメンバー NASAジョンソンスペースセンターでの宇宙飛行による操作性確認を行う日米メテオプロジェクトチーム/ISSとの通信を祝うメテオチームメンバー

──今は、どのような研究やプロジェクトに取り組んでいらっしゃいますか?

いま、日本の次期小惑星探査計画「DESTINY+(デスティニー・プラス)」 の理学ミッション責任者を担当しています。 この探査機は、毎年ふたご座流星群として地球に塵を届けている小惑星Phaethon (フェートン、ファエトンなどと呼ばれる)に秒速約36kmという高速で接近し、天体表面の地形を撮影したり、 天体周辺に漂う塵の組成を調べる計画です。また、Phaethonに到着するまでの間、惑星間空間の塵一粒毎の組成や軌道を測定し、塵の由来を調べます。地球には毎年4万トン以上の塵が 降ってきており、塵には有機物が多く含まれることがこれまでの研究でわかっています。太古の昔、宇宙から運ばれてきた塵が、地球生命の種をもたらした可能性があります。 DESTINY+の観測データにより、この可能性を検証し、地球に飛来する塵の実態が明らかになることが期待されています。
この計画は、10年前に学会有志の提案から始まり、多くの方の協力と支援により、昨年やっとプロジェクトになりました。だからこそ実現させたいのです。
惑星探査は、国境を越えて、様々な専門分野の人が知恵を出し合い協力しながら進めていく点が魅力だと思っています。


──将来に向けての夢や目標を教えてください。

まずはこの、「DESTINY+」を確実に成功させることですね。
一生をかけた目標は、惑星科学の研究から、なぜ地球に私たちのような知的生命が誕生したのかを知る手がかりを得ることです。子供の頃から抱いている不思議の謎を解きたいのです。 これまで、隕石の分析や流星観測、月惑星探査といったいろいろな分野を経験してきました。だらこそ、様々な切り口から、この研究分野の英知を結集してその謎に迫っていけると思っています。


──宇宙分野にはまだまだ女性の進出が少ないように思います。将来宇宙分野に進みたいと考えている方に、メッセージをお願いいたします。

宇宙分野は女性・男性というジェンダーを意識せずに進んでいける分野だと思います。出産・育児など女性としてのある時期だけはケアが必要だとしても、 それ以外はジェンダーを気にせずに楽しくやっていける分野ですね。私も毎日、楽しくワクワクしながら、新しい発見に日々魅せられています。みなさんもぜひ、一緒に宇宙の謎解きをしませんか?

最後にリポビタンDを手に持っていただき、記念撮影! 最後にリポビタンDを手に持っていただき、記念撮影!

<編集長からの一言>
荒井さんとは、月探査衛星「かぐや」のミッションでご一緒した時期がありました。今回のインタビューを通じて、どんな境遇をもプラスに変える芯の強さを改めて感じました。 荒井さんの明るく前向きな姿を見て、私自身も自分のミッションを改めて見直すきっかけにもなりました。より多くの若い人たちが宇宙分野の研究に加わるようにしていきたいですね。

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