厚生労働省の資料を元にした第一生命経済研究所のデータ^※１によると、メタボリックシンドローム（内臓脂肪症候群）該当者1人当たりの年間平均医療費は、そうでない人と比較して、男性で約8～9万円、女性では約10～18万円も高いという結果になりました。

今の時代にメタボになるということは、年間これだけの医療費が追加でかかるのですから、メタボは「非常にコスパが悪い」と意識する必要があります。

メタボになる前の段階（予備軍やその手前）で生活習慣を改善し、肥満を予防できれば、将来的に入院や高額な医療費を払うリスクは低くなります。メタボは放置するよりも予防したほうが、いかにコスパがよいのか、この差を知れば一目瞭然です。

ではなぜ、内臓脂肪の増加から始まるメタボリックシンドロームが、これほどまでに医療費を増大させるのでしょうか。その理由は、内臓脂肪が生活習慣病や命にかかわる病気の温床となるからです。

内臓脂肪細胞はただ蓄積されるだけではなく、「生理活性物質」と呼ばれるホルモンのような働きをもつ物質を分泌しています。内臓脂肪がたまり過ぎると、生活習慣病を招く物質の分泌量が増え、逆に生活習慣病を防ぐ生理活性物質は減少します。つまり内臓脂肪がたまると、生活習慣病になりやすくなるのです。

＜内臓脂肪型肥満が発端となる、医療費増大のメカニズム＞
➀内臓脂肪が増え、メタボリックシンドロームになる。
　　↓（放置すると…）
➁生活習慣病（高血圧、高血糖、脂質異常など）になり、治療に医療費がかかる。
　　↓（放置すると…）
➂さらに様々な重篤な病気が引き起こされる。主な病気には、狭心症、心筋梗塞、脳卒中、糖尿病の合併症、慢性腎臓病、認知症、がんなどがあり、治療に高額な医療費がかかる。
 

このように、メタボリックシンドロームを放置していると、ドミノ倒しのように連鎖して病気を招いていくことから、「メタボリックドミノ」と呼ばれています。

改めてメタボリックシンドロームの診断基準をおさらいしておきましょう。
 

＜メタボリックシンドロームの診断基準＞
① ウエスト周囲長（腹囲）が男性85cm、女性90cm以上
② 中性脂肪150mg/dL以上かつ/またはHDLコレステロール40mg/dL未満
③ 最大血圧（収縮期）130mmHg以上かつ/または最小血圧（拡張期） 85mmHg以上
④ 空腹時の血糖が110mg/dL以上

ドミノ倒しの流れを途中で止めるのは容易ではありません。治療の長期化によって、薬剤や通院費に加え、入院費などが蓄積した結果、個人の医療費負担が増加するだけでなく、企業などの健康保険組合の財政を圧迫。このままでは維持が難しくなる健康保険組合も出てきています。

メタボリックドミノの最初の１コマを倒さないように、未病の段階から「予防」することが、「コスパがよい健康的な生き方」といえるでしょう。

未病の段階とは、メタボリックシンドローム予備軍および非該当者です。ドミノ倒しが始まる前の時点から、何らかの対策を講じる必要があります。

コスパのよい健康的な生き方は、現在の体重のたった3％^※2を減らすだけで手に入れることができます。なぜなら、内臓脂肪はつきやすい反面、落としやすい脂肪だからです。

内臓脂肪は率先してエネルギーとして使われるため、現体重の3％減量できれば、血糖値や血圧、血中脂質などの数値は改善されることが分かっています。

体重の3％といえば、80kgの人なら2.4kg。90 kgの人でも2.7 kgです。これを3～6カ月かけて減らしていきます。この程度であれば、食べる量を少し減らすだけでも、実は簡単に落とせてしまいます。

しかも、きつい食事制限や運動は不要です。これだけで医療費の追加負担を防げるなら、内臓脂肪を減らすダイエットはコスパがよいと思いませんか？

「3～6カ月でマイナス3％の体重」を目標に決めたら、次は現在の生活を見直してみましょう。太る原因は必ず、ご自身の生活習慣にあります。ダイエットといっても、無理な減量は体調不良やリバウンドの元。時間をかけて少しずつ減量するのがポイントです。

忙しくてもすぐにできて、効果的な行動チェンジのコツをご紹介します。

① 毎日同じ時間に体重計に乗って記録
1日1回、体重計に乗る習慣をつけましょう。グラフにするなどして記録し、食事内容、飲酒の有無や量、歩数、運動量なども書いておきます。データが蓄積してくれば、体重と生活習慣の相関関係が見えてきて、改善点が見つかります。
 

② ごはん大きめ1口分を減らす
ごはんなどの主食を「大きめ1口」減らすだけで、1食50g（約80kcal）減らせます。3食減らせば、1日240kcal減。毎日継続できたなら、1カ月後には1kg減量できます。

③ 食事は野菜から食べる
食べる順番を「野菜→肉・魚→ごはん」に変えましょう。食物繊維を含む野菜を先に食べると、その後に食べた物の吸収が穏やかになり、血糖値の上昇を抑制します。血糖値の急降下も防げるため、空腹が長時間抑えられる利点も。ごはんやパン、めん類など消化吸収されやすい炭水化物の主食は、最後に食べるのがポイントです。
 

④ 座りっぱなしの時間を減らし、ちょこまか動く
内臓脂肪を減らしたいなら、座りっぱなしの時間を減らしましょう。オフィスでも30分に1度は立ち上がり、コピーを取りに行ったり、エレベーターではなく階段を使って移動したりするなど、意識的に動きましょう。「気づいたら座りっぱなし」の時間を減らすために、自宅ではリモコンは使わず、手動でテレビやエアコンを操作する、掃除機よりもモップや雑巾を使うなど、工夫して“ちょこまか動く”ように心がけてください。

内臓脂肪型肥満は生活習慣病のリスクを増加させるだけでなく、医療費負担の上昇にもつながる、いわば「家計の敵」。健康診断や保健指導は自分の健康状態をチェックする貴重な機会ですから、決して「受けて終わり」にしない意識改革が必要です。

医療費によって生涯支出が増える人生と、健康を維持して、浮いた医療費を趣味や旅行など、楽しみに回せる人生。あなたはどちらを選びますか？ 思い立ったが吉日、まずはマイナス3％のダイエットから始めてみましょう。