肥満と寿命の関係をご存じですか?「太っていると寿命が短くなる」と言われることがありますが、それは本当でしょうか? 実は、寿命に関係があるのは、見た目の肥満ではなく、内臓脂肪の量がカギを握っています。見た目はそんなに太っていなくても、内臓脂肪の量が多いと、寿命に大きく関係することが分かっています。「内臓脂肪型肥満」について、詳しく解説します。
肥満と寿命の関係をご存じですか?「太っていると寿命が短くなる」と言われることがありますが、それは本当でしょうか? 実は、寿命に関係があるのは、見た目の肥満ではなく、内臓脂肪の量がカギを握っています。見た目はそんなに太っていなくても、内臓脂肪の量が多いと、寿命に大きく関係することが分かっています。「内臓脂肪型肥満」について、詳しく解説します。
監修
監修
近藤しんたろうクリニック院長
近藤慎太郎 先生(こんどう・しんたろう)
近藤しんたろうクリニック院長
近藤慎太郎 先生(こんどう・しんたろう)
1972年東京生まれ。北海道大学医学部、東京大学医学部医学系大学院卒業。医学博士。
日本赤十字社医療センター、東京大学医学部附属病院を経て、山王メディカルセンター内視鏡室長、クリントエグゼクリニック院長などを歴任し、開業。消化器の専門医として、数多くのがん患者を診察。年間2000件以上の内視鏡検査・治療を手がける。マンガ家としての顔ももち、様々なメディアを通して、正しい医療情報を伝える啓蒙活動を行っている。
主な著書は『医者がマンガで教える 日本一まっとうながん検診の受け方、使い方』(日経BP)、『ほんとは怖い健康診断のC・D判定』(日経BP)など。
1972年東京生まれ。北海道大学医学部、東京大学医学部医学系大学院卒業。医学博士。
日本赤十字社医療センター、東京大学医学部附属病院を経て、山王メディカルセンター内視鏡室長、クリントエグゼクリニック院長などを歴任し、開業。消化器の専門医として、数多くのがん患者を診察。年間2000件以上の内視鏡検査・治療を手がける。マンガ家としての顔ももち、様々なメディアを通して、正しい医療情報を伝える啓蒙活動を行っている。
主な著書は『医者がマンガで教える 日本一まっとうながん検診の受け方、使い方』(日経BP)、『ほんとは怖い健康診断のC・D判定』(日経BP)など。
肥満によって寿命が縮まる理由は、単なる体重の増加ではなく内臓脂肪の蓄積にあります。「肥満は万病の元」といわれますが、見た目が太っていないからといって、油断は禁物です。危険な肥満と、そうでない肥満を分ける重要なポイントは、実は脂肪の量よりも、「脂肪の蓄積している場所」だからです。
肥満には、下腹部やお尻、太ももなど下半身に脂肪がたまる「皮下脂肪型肥満」と、内臓の周囲に脂肪がたまる「内臓脂肪型肥満」があり、内臓脂肪型肥満のほうが、命にかかわる病気になりやすいことが分かっています。
肥満によって寿命が縮まる理由は、単なる体重の増加ではなく内臓脂肪の蓄積にあります。「肥満は万病の元」といわれますが、見た目が太っていないからといって、油断は禁物です。危険な肥満と、そうでない肥満を分ける重要なポイントは、実は脂肪の量よりも、「脂肪の蓄積している場所」だからです。
肥満には、下腹部やお尻、太ももなど下半身に脂肪がたまる「皮下脂肪型肥満」と、内臓の周囲に脂肪がたまる「内臓脂肪型肥満」があり、内臓脂肪型肥満のほうが、命にかかわる病気になりやすいことが分かっています。
肥満かどうかを判定する方法として、身長と体重を元に計算できるBMI[体格指数=体重(㎏)÷身長(m)÷身長(m)]が広く知られており、BMIが25以上から肥満と判定されます。
しかし、実は日本ではBMIが25未満の非肥満や、軽度な肥満でも、内臓脂肪がたまっている人が一定数※1います。これは、皮下脂肪がつきやすい欧米人と比較して、日本人は内臓に脂肪が蓄積しやすいためです。
それほど太って見えなくても、内臓脂肪が蓄積している人では、狭心症や心筋梗塞など冠動脈疾患をもつ患者が多く存在するのも、日本ならではの特徴です。
このように、日本人は内臓脂肪型肥満による健康被害のリスクが高いことから、WHO(世界保健機関)ではBMI=30以上を肥満の基準としているのに対し、日本肥満学会はBMI=25以上を肥満と定義しています。
そのため、日本人の場合、BMIで肥満の基準に達していないからといって、安心はできません。 自分が肥満だという意識が薄い分、内臓脂肪がたまっていても太って見えない人は、逆に危険なのです。
肥満かどうかを判定する方法として、身長と体重を元に計算できるBMI[体格指数=体重(㎏)÷身長(m)÷身長(m)]が広く知られており、BMIが25以上から肥満と判定されます。
しかし、実は日本ではBMIが25未満の非肥満や、軽度な肥満でも、内臓脂肪がたまっている人が一定数※1います。これは、皮下脂肪がつきやすい欧米人と比較して、日本人は内臓に脂肪が蓄積しやすいためです。
それほど太って見えなくても、内臓脂肪が蓄積している人では、狭心症や心筋梗塞など冠動脈疾患をもつ患者が多く存在するのも、日本ならではの特徴です。
このように、日本人は内臓脂肪型肥満による健康被害のリスクが高いことから、WHO(世界保健機関)ではBMI=30以上を肥満の基準としているのに対し、日本肥満学会はBMI=25以上を肥満と定義しています。
そのため、日本人の場合、BMIで肥満の基準に達していないからといって、安心はできません。 自分が肥満だという意識が薄い分、内臓脂肪がたまっていても太って見えない人は、逆に危険なのです。
※1 出典:「日本内科学会雑誌第105巻3号」(p394)
※1 出典:「日本内科学会雑誌第105巻3号」(p394)
内臓脂肪が多いと、なぜ命にかかわるのか。その理由は、内臓脂肪細胞が分泌している、様々な生理活性物質と関係があります。
生理活性物質には、脂質異常や高血圧、高血糖といった生活習慣病を招く物質と、それらを防ぐ物質があります。内臓脂肪をたっぷりと蓄えた肥満の人は、生活習慣病を招く生理活性物質が増えるだけでなく、それを防ぐ生理活性物質の分泌まで減ってしまいます。その結果、内臓脂肪型肥満では、特に生活習慣病のリスクが高まりやすくなります。
生活習慣病が怖いのは、知らず知らずのうちに症状が悪化して、やがて命にかかわる病気を引き起こす点です。
実際、命にかかわる病気につながる動脈硬化も、初期のうちはほとんど自覚症状がありません。しかし、進行すると心臓や脳の血管が詰まり、心筋梗塞や脳梗塞など、ある日突然、死に至る危険な病気を引き起こします。
内臓脂肪が多いと、なぜ命にかかわるのか。その理由は、内臓脂肪細胞が分泌している、様々な生理活性物質と関係があります。
生理活性物質には、脂質異常や高血圧、高血糖といった生活習慣病を招く物質と、それらを防ぐ物質があります。内臓脂肪をたっぷりと蓄えた肥満の人は、生活習慣病を招く生理活性物質が増えるだけでなく、それを防ぐ生理活性物質の分泌まで減ってしまいます。その結果、内臓脂肪型肥満では、特に生活習慣病のリスクが高まりやすくなります。
生活習慣病が怖いのは、知らず知らずのうちに症状が悪化して、やがて命にかかわる病気を引き起こす点です。
実際、命にかかわる病気につながる動脈硬化も、初期のうちはほとんど自覚症状がありません。しかし、進行すると心臓や脳の血管が詰まり、心筋梗塞や脳梗塞など、ある日突然、死に至る危険な病気を引き起こします。
日本人の死因※2の第2位は心筋梗塞や狭心症などの心疾患(心臓病)、第4位は脳梗塞などの脳血管疾患です。この2つはいずれも、血管の劣化 である「動脈硬化」が原因で発症することが多いという共通点があります。
内臓脂肪型肥満に加えて、肥満に伴う脂質異常、高血圧、高血糖は、どれも動脈硬化を進める危険因子です。一つひとつは程度が軽くても、複数の危険因子が重なると、動脈硬化の進行を加速させます。
労働省(現厚生労働省)作業関連疾患総合対策研究班が発表した「宿主要因と動脈硬化性疾患に関する研究(1995)」によると、心筋梗塞や狭心症の場合、これらの危険因子がない人のリスクを1とすると、危険因子を1つもっている人のリスクは5.1倍、2つもっている人は5.8倍、3つ以上もっている人は35.8倍と、急激に跳ね上がることが報告されています。
日本人の死因第1位の「がん」においても、内臓脂肪型肥満が大腸がんや乳がんなどの発症に関係すると、様々な研究によって指摘されているのです。
日本人の死因※2の第2位は心筋梗塞や狭心症などの心疾患(心臓病)、第4位は脳梗塞などの脳血管疾患です。この2つはいずれも、血管の劣化 である「動脈硬化」が原因で発症することが多いという共通点があります。
内臓脂肪型肥満に加えて、肥満に伴う脂質異常、高血圧、高血糖は、どれも動脈硬化を進める危険因子です。一つひとつは程度が軽くても、複数の危険因子が重なると、動脈硬化の進行を加速させます。
労働省(現厚生労働省)作業関連疾患総合対策研究班が発表した「宿主要因と動脈硬化性疾患に関する研究(1995)」によると、心筋梗塞や狭心症の場合、これらの危険因子がない人のリスクを1とすると、危険因子を1つもっている人のリスクは5.1倍、2つもっている人は5.8倍、3つ以上もっている人は35.8倍と、急激に跳ね上がることが報告されています。
日本人の死因第1位の「がん」においても、内臓脂肪型肥満が大腸がんや乳がんなどの発症に関係すると、様々な研究によって指摘されているのです。
※2 出典:厚生労働省「令和5年(2023) 人口動態統計月報年計(概数)の概況」
※2 出典:厚生労働省「令和5年(2023) 人口動態統計月報年計(概数)の概況」
「健康寿命」とは、WHO(世界保健機関)が取り入れた新しい寿命の指標のこと。平均寿命から「寝たきり」や「認知症」などの介護や支援を必要とする期間を差し引いた期間を指します。「日常生活に支障がなく、自立して健康に暮らせている期間」が健康寿命であり、私たちの生活の質に大きくかかわってきます。
「健康寿命」とは、WHO(世界保健機関)が取り入れた新しい寿命の指標のこと。平均寿命から「寝たきり」や「認知症」などの介護や支援を必要とする期間を差し引いた期間を指します。「日常生活に支障がなく、自立して健康に暮らせている期間」が健康寿命であり、私たちの生活の質に大きくかかわってきます。
肥満は寿命だけでなく、「健康寿命」も縮める原因になります。
介護が必要となる原因の第1位は「認知症」、2位は「脳血管疾患」※3です。内臓脂肪が多いと、脳血管疾患の引き金になることは、先ほど説明した通りですが、肥満の認知症への関与を指摘する研究も複数報告されています。
アメリカの調査※4では、内臓脂肪が多い人は、脳梗塞や脳出血などの脳血管障害によって引き起こされる「脳血管性認知症」や、脳の神経細胞が減り、脳が萎縮することで発症する「アルツハイマー型認知症」の発症リスクが高いことも分かりました。
適正体重の人と比較して、BMI30以上の肥満の人は、脳血管性認知症の発症が5倍に。アルツハイマー型認知症の発症も3.1倍という結果から、肥満と認知症の深い関係性が指摘されています。
日本人はBMI25以下でも内臓脂肪が多いタイプが多いため、認知症の予防という観点でも、早めの対策が肝心です。
肥満は寿命だけでなく、「健康寿命」も縮める原因になります。
介護が必要となる原因の第1位は「認知症」、2位は「脳血管疾患」※3です。内臓脂肪が多いと、脳血管疾患の引き金になることは、先ほど説明した通りですが、肥満の認知症への関与を指摘する研究も複数報告されています。
アメリカの調査※4では、内臓脂肪が多い人は、脳梗塞や脳出血などの脳血管障害によって引き起こされる「脳血管性認知症」や、脳の神経細胞が減り、脳が萎縮することで発症する「アルツハイマー型認知症」の発症リスクが高いことも分かりました。
適正体重の人と比較して、BMI30以上の肥満の人は、脳血管性認知症の発症が5倍に。アルツハイマー型認知症の発症も3.1倍という結果から、肥満と認知症の深い関係性が指摘されています。
日本人はBMI25以下でも内臓脂肪が多いタイプが多いため、認知症の予防という観点でも、早めの対策が肝心です。
※3 出典:厚生労働省「国民生活基礎調査」(2022年)
※4 出典:Whitmer RA, et al: Body mass index in midlife and risk of Alzheimer disease and vascular dementia. Curr Alzheimer Res 4: 103-109, 2007.
※3 出典:厚生労働省「国民生活基礎調査」(2022年)
※4 出典:Whitmer RA, et al: Body mass index in midlife and risk of Alzheimer disease and vascular dementia. Curr Alzheimer Res 4: 103-109, 2007.
肥満には、感染症の重症化を招くリスクもあります。
内臓脂肪は体内で慢性的に小さな炎症を起こす「炎症性サイトカイン」を産生します。サイトカインは免疫細胞を継続的に活性化するため、体は慢性的な炎症状態となります。こうした状態で風邪やインフルエンザなどのウイルスに感染すると、免疫機能のキャパシティが低下し、感染への抵抗力が弱まってしまうのです。
新型コロナウイルス感染症が広がった際、肥満が重症化リスクを高めたのは、ウイルス感染を契機に内臓脂肪の炎症が急激に悪化し、大量の炎症性サイトカインが放出され、感染への抵抗力が一気に低下したためと考えられます。
肥満には、感染症の重症化を招くリスクもあります。
内臓脂肪は体内で慢性的に小さな炎症を起こす「炎症性サイトカイン」を産生します。サイトカインは免疫細胞を継続的に活性化するため、体は慢性的な炎症状態となります。こうした状態で風邪やインフルエンザなどのウイルスに感染すると、免疫機能のキャパシティが低下し、感染への抵抗力が弱まってしまうのです。
新型コロナウイルス感染症が広がった際、肥満が重症化リスクを高めたのは、ウイルス感染を契機に内臓脂肪の炎症が急激に悪化し、大量の炎症性サイトカインが放出され、感染への抵抗力が一気に低下したためと考えられます。
肥満と寿命の関係は近年多くの研究で明らかになりつつあります。日本では、腹部CT検査で内臓脂肪の断面積が100 cm2を超えると、高血圧、脂質異常症、糖尿病など、肥満が関連する心血管系の危険因子が増えることから、内臓脂肪型肥満の概念が提唱されるようになりました。
ちなみに、皮下脂肪の断面積が増大しても、こうした関連性は見られないことも、研究によって明らかになっています。
内臓脂肪面積100cm2に相当するウエスト周囲長(おへその高さを水平に測ったお腹周りの長さ)は、男性で85cm以上、女性は90cm以上で、これがメタボ健診での腹囲測定の基準値となっています。中には手足がほっそりしていて、一見やせて見える人もいますが、ウエスト周囲長が基準値を超えていれば、健康障害を伴いやすい内臓脂肪型肥満の可能性が高いといえます。
肥満と寿命の関係は近年多くの研究で明らかになりつつあります。日本では、腹部CT検査で内臓脂肪の断面積が100 cm2を超えると、高血圧、脂質異常症、糖尿病など、肥満が関連する心血管系の危険因子が増えることから、内臓脂肪型肥満の概念が提唱されるようになりました。
ちなみに、皮下脂肪の断面積が増大しても、こうした関連性は見られないことも、研究によって明らかになっています。
内臓脂肪面積100cm2に相当するウエスト周囲長(おへその高さを水平に測ったお腹周りの長さ)は、男性で85cm以上、女性は90cm以上で、これがメタボ健診での腹囲測定の基準値となっています。中には手足がほっそりしていて、一見やせて見える人もいますが、ウエスト周囲長が基準値を超えていれば、健康障害を伴いやすい内臓脂肪型肥満の可能性が高いといえます。
健康に悪影響を与える内臓脂肪は、たまりやすい反面、エネルギー不足の時に率先して使われるため、減りやすいという特徴があります。現在の体重の3%を減らすだけでも内臓脂肪が減り、血糖値や血圧、血中脂質の数値は目に見えて改善されることが分かっています。
3%の減少であれば、厳しい食事制限や激しい運動をしなくても、今の生活習慣を少し見直すだけで、健康的に内臓脂肪を減らすことができます。
健康に悪影響を与える内臓脂肪は、たまりやすい反面、エネルギー不足の時に率先して使われるため、減りやすいという特徴があります。現在の体重の3%を減らすだけでも内臓脂肪が減り、血糖値や血圧、血中脂質の数値は目に見えて改善されることが分かっています。
3%の減少であれば、厳しい食事制限や激しい運動をしなくても、今の生活習慣を少し見直すだけで、健康的に内臓脂肪を減らすことができます。
「肥満と寿命」の本質は、内臓脂肪の量にあります。日本人の場合、体重やBMIの数値だけでは分からない「隠れ内臓脂肪型肥満」も多いため、腹囲やCT測定などで内臓脂肪量を測ることが大切です。
もし、あなたが健康診断で行う“腹囲測定”で基準値を超えていたなら、それは命を守るための大切なシグナル。内臓脂肪は簡単に減らすことができます。まずは体重を3%減らすことから、内臓脂肪ダイエットを始めましょう。
「肥満と寿命」の本質は、内臓脂肪の量にあります。日本人の場合、体重やBMIの数値だけでは分からない「隠れ内臓脂肪型肥満」も多いため、腹囲やCT測定などで内臓脂肪量を測ることが大切です。
もし、あなたが健康診断で行う“腹囲測定”で基準値を超えていたなら、それは命を守るための大切なシグナル。内臓脂肪は簡単に減らすことができます。まずは体重を3%減らすことから、内臓脂肪ダイエットを始めましょう。