「眼精疲労」とは?
セルフチェックで確認しましょう

最近、細かい物が見えにくくなった、目がかすむなど、目に不調を感じることはありませんか?そんな症状が1~2日経っても取れないなら、疲れ目の状態が慢性的に続く眼精疲労(がんせいひろう)かもしれません。眼精疲労は、目の疲れだけではなく、肩こりや頭痛など様々な全身症状を伴います。たかが疲れ目と軽視せず、適切なケアが必要です。ここでは眼精疲労とは何か、疲れ目との違いや、簡単にできるセルフチェックの方法などをご紹介します。

<監修>

戸田郁子先生 南青山アイクリニック理事長・院長/慶應義塾大学医学部眼科学教室講師 戸田郁子先生 南青山アイクリニック理事長・院長/慶應義塾大学医学部眼科学教室講師

戸田郁子先生
南青山アイクリニック理事長・院長/慶應義塾大学医学部眼科学教室講師

とだ・いくこ 筑波大学医学専門学群卒業。東京慈恵会医科大学眼科、慶應義塾大学眼科学教室専修医、東京歯科大学眼科を経て、1994年米国ハーバード大学・眼研究所留学。97年南青山アイクリニック院長となる。99年慶應義塾大学医学博士に。02年南青山アイクリニック理事長に就任。04年慶應義塾大学眼科学教室講師。専門分野は屈折矯正手術(近視・乱視・遠視手術)およびドライアイ。

眼精疲労は目だけではなく、全身症状に及ぶのが特徴

眼精疲労は目だけではなく、全身症状に及ぶのが特徴 眼精疲労は目だけではなく、全身症状に及ぶのが特徴

「目が重い」「目がかすむ」「夕方になると目がかわいてしょぼしょぼする」など、目の疲れを訴える人が増えています。その背景には、パソコンやスマートフォンなどの急速な普及があります。1日何時間も同じ姿勢でモニター画面を見続けることで目の疲れが蓄積し、全身の不調を伴うケースが多くなっています。

単なる疲れ目であれば、1~2日ぐっすり眠ると回復することが多いですが、休んでも回復せず、慢性的に続く疲れを「眼精疲労」といい、ただの疲れ目とは区別されます。

眼精疲労は疲れ目がさらに進行した状態で、症状も重くなります。目がかすむ、目が重い、充血する、目の奥の痛み、ドライアイ、まぶたが開きにくくなるなどの症状に加え、頭痛や肩こり、吐き気、不眠、食欲や集中力の低下、全身の倦怠感や、軽いうつ状態など、全身症状を伴う場合もあります。

あなたは眼精疲労?セルフチェックしてみよう

あなたは眼精疲労?セルフチェックしてみよう あなたは眼精疲労?セルフチェックしてみよう

目の疲れを何もケアせずに放置すると、疲労がさらに蓄積していき、やがて眼精疲労に進んでしまいます。まずはセルフチェックをして、自分の目の状態を確認し、ただの目の疲れを眼精疲労へと悪化させないことが重要です。

● 眼精疲労チェック

次のような症状があると、眼精疲労の可能性があります。チェックしてみましょう。

<目の症状>
□目が重い
□目がしょぼしょぼする
□目が疲れる
□目が痛む
□目がぼやける
□目がかすむ
□目が充血する
□目がかわく

<目以外の症状>
□肩こり
□頭痛
□疲労感
□吐き気
□集中力の低下
□胃腸の不調

「毛様体筋」の緊張が、眼精疲労を引き起こす

眼精疲労のメカニズムを知るためには、まず目が見える仕組みを知る必要があります。人の目の仕組みはフィルムカメラの仕組みとよく似ています。目から入った光は角膜と水晶体で屈折してピントを網膜上に合わせ、像が映し出されます。光の量を加減するカメラの‟絞り“にあたるのが虹彩(こうさい)です。写し出された像は視神経を通じて脳に運ばれ、脳の中に画像として残り、物が見えるというわけです。

目が見える仕組み 目が見える仕組み

● 近くばかりを見すぎることによる毛様体筋の緊張が「眼精疲労」の原因に

目には自動的にピントを調節するオートフォーカス機能が備わっています。目の中にある「毛様体筋(もうようたいきん)」という筋肉が縮んだり緩んだりして水晶体の厚さを変え、ピントを合わせているのです。眼精疲労は、水晶体の厚さを変化させることでピントを調節する毛様体筋の緊張が原因とされています。

近くを見る時は、レンズとなる水晶体を厚くするために毛様体筋が緊張します。しかし、脚や腕の筋肉が長く緊張していると疲れるのと同様に、毛様体筋も緊張状態が長時間続くと疲れてしまいます。例えば、パソコンの画面や書類など、近くの物をじっと見続けると眼球が固定され、毛様体筋には大きな負担がかかります。このような状態が続くと、毛様体筋が疲れて、慢性的な目の疲れ、つまり眼精疲労となって、様々な症状が全身に現れます。

目のピント調節機能 目のピント調節機能

加齢によって眼精疲労を起こしやすくなる

加齢も眼精疲労を悪化させる要因のひとつです。特に、40代以降は水晶体の厚さを変えるピント調節機能が衰えます。加齢によって筋肉が硬くなり、身体の血行が悪くなるように、水晶体の周りの毛様体筋も硬化して動きが悪くなるのです。また、水晶体そのものが硬化し、厚みを増して動きが悪くなること、あるいはその両方が同時に起こることによって、近くの物にピントを合わせる力が減退します。無理にピントを合わせようとするとますます目が疲れ、疲労の蓄積によって眼精疲労へと進行してしまいます。

老眼の症状があるのにメガネをかけない、度数の合わないメガネやコンタクトレンズを使い続けることも目の疲れを引き起こす原因となります。眼精疲労を悪化させないためにも、自分の視力に合わせて、正しく矯正したメガネやコンタクトレンズを利用することが大切です。

眼精疲労は目の病気が原因の場合も!特に中高年は軽視せずに検査を

眼精疲労は目の病気が原因の場合も!特に中高年は軽視せずに検査を 眼精疲労は目の病気が原因の場合も!特に中高年は軽視せずに検査を

目の病気の中には、眼精疲労を引き起こす病気もあるため、「疲れ目くらいで……」と軽視しないことが大切です。特に中高年は、加齢と共に涙液の分泌量が減少し、目がかわきやすくなります。目の疲れの陰に別の病気が潜んでいるケースもありますので、眼精疲労の症状を感じた時は、早めに眼科で検査を受けましょう。そして病気が見つかった場合は、早めに治療を開始することが大切です。

加齢に伴って眼精疲労を起こしやすい代表的な目の病気には、次のようなものがあります。

● ドライアイ

涙液が減って目が乾燥し、目の表面が傷つきやすくなる病気です。加齢のほか、長時間のVDT(パソコンなどの画面)作業や室内の乾燥、コンタクトレンズの使用など、様々な原因で起こります。近年は、目の疲れを訴える患者さんの約6割に、ドライアイの症状があるという調査結果もあります。

● 白内障

本来は透明である水晶体が、老化によって白く濁る病気です。目がかすむ、細かい文字が見えにくい、光をまぶしく感じるなどの症状が現れ、視力が徐々に低下していきます。日常生活に支障をきたした場合は手術が必要です。近年は、安全性に配慮され痛みの少ない日帰り手術を行う医療機関も多数あります。白内障は白髪と同じように、いずれほぼ全ての人に生じる加齢に伴う変化ですが、眼科で定期的に検査を受けましょう。

● 緑内障

何らかの原因で視神経のダメージが起こり、視野(見える範囲)が欠け、狭くなる病気です。眼圧の上昇がその原因のひとつと言われていますが、眼圧が正常にもかかわらず緑内障を発症する「正常眼圧緑内障」もあります。ほとんどの場合、症状が進行するまで自覚症状がほとんどありません。検査によって初めて緑内障と診断されるケースが多く、1度失ってしまった視野は薬や手術によっても回復することはありません。そのため、目が疲れやすい、目がかすむなどの症状があれば放置せず、早期発見と適切な治療によって、病気の進行をできるだけ抑えることが重要です。

● 加齢黄斑変性

加齢によって網膜の中心にある黄斑に異常が生じる病気です。初期は、物の中心部が暗く見えたり、ゆがんで見えたりします。病気の進行に伴って見えにくい範囲が徐々に広がり、視野も低下します。視力低下が重症となった場合、回復が難しくなります。眼科で定期検査を受け、早期発見に努めましょう。

● 糖尿病網膜症

糖尿病の合併症で、目の毛細血管が障害されて起こる病気です。日本人の成人の失明原因のトップ 3に数えられる疾患ですが、自覚症状が全くないまま病気が進行してしまうことも多く、注意が必要です。「目が疲れる」「目がなんとなく重い」という症状があれば、糖尿病網膜症が潜んでいる可能性があります。糖尿病と診断されたら、内科と共に眼科での定期検査を欠かさず受けるようにしましょう。

たかが疲れ目と甘く見るのは禁物です。眼精疲労には必ず原因があります。今回紹介したセルフチェックで眼精疲労の可能性があった方は、一度早めに眼科を受診することをお勧めします。