「ミノキシジル」は薬の名前ではなく、成分の名前です。ミノキシジルはアップジョン社（現Johnson & Johnson社）が開発し、高血圧症治療の内服薬の成分として1979年からアメリカで使用され始めましたが、治療中の患者に多毛が認められたことから、あらためて外用の発毛剤の成分として開発が進められ、ミノキシジル配合の発毛剤が医薬品として承認されました。

ミノキシジルは、髪を育てる毛包に直接作用し、細胞の増殖やタンパク質の合成を促進することによって発毛を促します。また、ヘアサイクルの変化で小さくなった毛包に働きかけ、細く軟毛化した毛髪を太く成長させ、抜け毛の進行を予防します。

さらに、ミノキシジルがもつ血管拡張作用により、毛包の周囲の血流を改善し、十分な栄養や酸素を供給することで、発毛効果を発揮します。こうした「発毛効果」に加え、すでに始まってしまった脱毛に対して、その進行を食い止めて現状を維持する「脱毛の進行予防効果」もあります。

男性用の発毛剤には発毛成分ミノキシジルの配合濃度が5％のものもありますが、女性用は配合濃度1％のものだけが国内で承認されています。5％配合のものは女性用として承認されていないので、女性は必ず女性用を使うようにしましょう。また、説明書にある使用回数や使用量を守って使うことも大切です。

ミノキシジルの効果が感じられるまでの期間には個人差がありますが、ミノキシジル1％の発毛剤を毎日使用した場合、臨床試験では6ヵ月使用後に効果が見られました。ミノキシジルの発毛効果を維持するには継続して使用することが必要で、使用を中止すると徐々に元に戻っていきます。

ミノキシジル配合の発毛剤は、6ヵ月使用して改善が認められない場合は使用を中止し、医師または薬剤師に相談しましょう。

東洋医学では「髪は血の余り」といわれます。髪はなくても生命活動に支障のない組織の1つなので、栄養が足りない、血の巡りが悪い、睡眠がとれていないなどの不利な状態がそろうと一番初めに切り捨てられ、ダメージが現れてしまいます。髪をつくる体が健康でなければ、健康な髪は育ちません。

壮年性脱毛症には、体を内側から整えて、体と治療薬の「総合力」で立ち向かうことも大切です。生活習慣の改善は欠かせないため、どのような薄毛の場合でも、以下のポイントを押さえて実践していきましょう。

食事

幅広い栄養素をバランスよく摂ることが基本です。その上で、髪の主成分ケラチンの原料となる「タンパク質」、頭皮に新鮮な酸素や栄養を届ける「鉄」、髪の成長に不可欠な「亜鉛」、体内の代謝をよくする「ビタミンB群」の4つを意識して摂るようにしましょう。

＜ワンポイント＞

・1日50g以上を目安に、幅広い食品からタンパク質を摂る
1日50gのタンパク質成分を摂取するには、タンパク質が豊富な食材を250g程度摂ることが必要です。肉だけに偏らず、魚介類・卵・乳製品・豆類など幅広い食品からまんべんなく、ゆっくりよくかんで摂りましょう。

・肉・魚・貝類など鉄分の多いタンパク質食品をしっかり摂る
動物性食品には、吸収率が高いヘム鉄が含まれています。植物性食品に含まれるのは非ヘム鉄で、ヘム鉄に比べ吸収率がかなり低いのですが、ビタミンCを含む野菜や果物と一緒に摂ると非ヘム鉄の吸収率がアップし、全体の栄養バランスもよくなります。

・サプリは補助的な利用にとどめ、食事できちんと栄養を摂る
栄養成分によっては、長期間摂り続けると過剰摂取になることがあるため注意が必要です。サプリメントはあくまで食事の補助と考え、毎日の食生活を整えて栄養を摂取するようにしましょう。

睡眠

女性ホルモンと並んで髪の健康に欠かせない「成長ホルモン」と「メラトニン」は、睡眠不足が続くと分泌が不安定になり、髪の成長に影響します。特に成長ホルモンは眠り始めの深い睡眠の時に最も分泌が高まるため、眠り始めの３～４時間は特に深く質のよい睡眠をとれるよう、生活リズムや睡眠環境を整えましょう。

＜ワンポイント＞

・眠る前は“お休みモード”を心がけ、副交感神経を優位にする
夕食は遅くとも就寝3時間前には済ませ、1時間前くらいにはスマホやパソコンから離れてリラックスして過ごしましょう。リラックスタイムの照明は、間接照明や白熱灯などの黄色味のある光がおすすめです。ぬるめの湯にゆっくり浸かる入浴やストレッチ、ヨガ、温かい飲み物の摂取なども副交感神経を優位にし、スムーズな眠りに導いてくれます。

・朝起きたらカーテンを開けて光を浴びる
朝に目から光を感じることで、夜のメラトニンの分泌がスムーズになります。朝の光で神経の安定にかかわる「セロトニン」が活性化されるので、ストレス対策としても有効です。

・メリハリのある生活を送る
日中はできるだけ活動的に、夕方以降は穏やかに過ごすことで睡眠のリズムが整いやすくなります。

運動

運動不足によって代謝が低下すると、食事で摂った栄養素が体内で有効に活用されなくなるため、髪の成長にも影響します。また、体の巡りが悪くなり、頭皮の血流も悪化して健康な髪が育ちにくくなります。無理のない範囲で、適度な運動習慣を取り入れましょう。

＜ワンポイント＞

・筋トレと有酸素運動を組み合わせる
体に負荷をかけて行う「筋トレ（レジスタンス運動）」と、酸素を取り入れながら行う「有酸素運動」の両方を組み合わせて行うのが理想的です。成長ホルモンの分泌が活発になり、新陳代謝もよくなって、健やかな髪の成長につながります。

・すき間時間を利用して、こまめに体を動かす
運動の時間がなかなか取れない人も、日常生活でこまめに体を動かすようにしましょう。エレベーターの代わりに階段を使ったり、買い物に車を使わず歩いて行ったりするのもおすすめです。掃除や庭仕事なども体の使い方によってはいい運動になります。

ストレスケア
ストレスによって自律神経のバランスが乱れると、血流が悪くなったり、消化吸収がうまく行われなくなったりし、髪の成長を妨げることに。ストレスで眠れなくなれば、ホルモン分泌にも影響します。さらに、ストレスは体内の活性酸素を増やし、細胞の働きを低下させる原因ともなります。髪の健康のために、ストレスケアを心がけましょう

＜ワンポイント＞

・ストレスを受けてもため込まない
ストレスは、ためないことが大切です。ストレスの元からできるだけ距離を置くと共に、趣味に没頭する、体を動かす、友人とおしゃべりする、好きな音楽を聴く、のんびりお風呂に浸かるなど、自分なりの方法でストレス発散を心がけましょう。

・抗酸化食品を積極的に摂る
ストレスで増える活性酸素の害から体を守るために、抗酸化成分の豊富な食品を積極的に摂りましょう。代表的な抗酸化成分は、ビタミンA、ビタミンC、ビタミンE、ポリフェノールなど。季節ごとの旬の食材も抗酸化力が高いといわれています。加工食・保存食・高温加熱食は栄養が損なわれやすいため、できる限り生鮮食品から摂るようにしましょう。

女性の薄毛の治療薬は、「壮年性脱毛症」の治療薬として発毛成分「ミノキシジル」1％配合のローションタイプの外用薬「リアップリジェンヌ」が市販されています。ただし、女性の薄毛の原因は壮年性脱毛症に限らないため、使用前にチェックをすることが大切です。治療薬の利用と併せて、体の内側からのケアも実践していきましょう。