近年、腸内細菌は、細菌そのものだけでなく、その代謝物も健康に影響を与えるということがわかってきています。
最近よく聞く「短鎖脂肪酸」も腸内細菌の主要な代謝物の1つです。代表的なものとしては酢酸、酪酸、プロピオン酸などがあり、これら1つ1つが免疫に関わる重要な働きをしています。
今回は「短鎖脂肪酸」の働きについて、理化学研究所で長年、腸の研究をされている大野博司先生に教えていただきました。
近年、腸内細菌は、細菌そのものだけでなく、その代謝物も健康に影響を与えるということがわかってきています。
最近よく聞く「短鎖脂肪酸」も腸内細菌の主要な代謝物の1つです。代表的なものとしては酢酸、酪酸、プロピオン酸などがあり、これら1つ1つが免疫に関わる重要な働きをしています。
今回は「短鎖脂肪酸」の働きについて、理化学研究所で長年、腸の研究をされている大野博司先生に教えていただきました。
監修
監修
理化学研究所生命医科学研究センター副センター長
横浜市立大学大学院生命医科学研究科 客員教授
千葉大学大学院医学研究院 客員教授
大野博司先生
理化学研究所生命医科学研究センター副センター長
横浜市立大学大学院生命医科学研究科 客員教授
千葉大学大学院医学研究院 客員教授
大野博司先生
私たちの周りには、とても多くのウイルスや細菌などの異物が存在します。そして私たちの体には、体内に入ってきたそれらの異物を排除するために働く免疫システムがあります。
そのひとつが免疫グロブリンです。抗体の機能を持っているタンパク質の総称で、IgA、IgG、IgE、IgM、IgDなど大きく5種類あります。
中でもIgAは、全身の60%以上が腸管に存在していて、腸粘膜の表面でウイルスや細菌などの病原体の毒素を中和し、体内への侵入を防いでくれます。
短鎖脂肪酸の一種である「酢酸(さくさん)」は、そのIgAの働きを助け、大腸へ病原体が侵入するのを防いでいます。つまり、酢酸によって免疫システムがパワーUPされるのです。
私たちの周りには、とても多くのウイルスや細菌などの異物が存在します。そして私たちの体には、体内に入ってきたそれらの異物を排除するために働く免疫システムがあります。
そのひとつが免疫グロブリンです。抗体の機能を持っているタンパク質の総称で、IgA、IgG、IgE、IgM、IgDなど大きく5種類あります。
中でもIgAは、全身の60%以上が腸管に存在していて、腸粘膜の表面でウイルスや細菌などの病原体の毒素を中和し、体内への侵入を防いでくれます。
短鎖脂肪酸の一種である「酢酸(さくさん)」は、そのIgAの働きを助け、大腸へ病原体が侵入するのを防いでいます。つまり、酢酸によって免疫システムがパワーUPされるのです。
免疫は人間の体を外敵などから守るために必要なものですが、過剰に働くと人間に害を与えることがあります。そんな時に活躍するのが短鎖脂肪酸の一種「酪酸(らくさん)」です。
大腸の壁(粘膜)は新陳代謝を繰り返しています。古くなった粘膜は剥がれ落ちて、新しい粘膜細胞を作って入れ替わるのですが、酪酸は、その新陳代謝のためのエネルギー(ATP)産生に使われます。
また、大腸においてアレルギーを抑える制御性T細胞を増やすためにも使われます。
免疫は人間の体を外敵などから守るために必要なものですが、過剰に働くと人間に害を与えることがあります。そんな時に活躍するのが短鎖脂肪酸の一種「酪酸(らくさん)」です。
大腸の壁(粘膜)は新陳代謝を繰り返しています。古くなった粘膜は剥がれ落ちて、新しい粘膜細胞を作って入れ替わるのですが、酪酸は、その新陳代謝のためのエネルギー(ATP)産生に使われます。
また、大腸においてアレルギーを抑える制御性T細胞を増やすためにも使われます。
アレルギーや自己免疫疾患※1は、免疫細胞の仲間であるT細胞が、誤って自分の体を攻撃してしまうことで発症します。そのようなT細胞の暴走を抑えて調整する細胞が制御性T細胞です。この働きは自己免疫疾患だけでなく、アレルギーや炎症など、人間の体に好ましくない免疫応答を抑えてくれます。
酪酸は、制御性T細胞を増やすことで、免疫細胞のバランスをとる働きが期待されています。
アレルギーや自己免疫疾患※1は、免疫細胞の仲間であるT細胞が、誤って自分の体を攻撃してしまうことで発症します。そのようなT細胞の暴走を抑えて調整する細胞が制御性T細胞です。この働きは自己免疫疾患だけでなく、アレルギーや炎症など、人間の体に好ましくない免疫応答を抑えてくれます。
酪酸は、制御性T細胞を増やすことで、免疫細胞のバランスをとる働きが期待されています。
※1 自己免疫疾患:本来、自分の体を守るために働く免疫組織が、自身の体の一部を攻撃してしまう病気の総称。
※1 自己免疫疾患:本来、自分の体を守るために働く免疫組織が、自身の体の一部を攻撃してしまう病気の総称。
プロピオン酸についても研究が進んでいます。
授乳期にプロピオン酸を含む飲料水を投与した母親から生まれた子マウスでは、成長後に、気管支喘息の病態の1つであるアレルギー性気道炎症が抑制されることがわかりました。この成果より短鎖脂肪酸が腸管内のみならず、アレルギー疾患などの腸管外疾患に深く関与していることが考えられます。
プロピオン酸についても研究が進んでいます。
授乳期にプロピオン酸を含む飲料水を投与した母親から生まれた子マウスでは、成長後に、気管支喘息の病態の1つであるアレルギー性気道炎症が抑制されることがわかりました。この成果より短鎖脂肪酸が腸管内のみならず、アレルギー疾患などの腸管外疾患に深く関与していることが考えられます。
また、多発性硬化症※2の人は便中や血中のプロピオン酸が少なく、プロピオン酸を投与することで症状が軽快するという論文がヨーロッパの研究で発表されており、こちらも免疫との関係性が考えられています。
また、多発性硬化症※2の人は便中や血中のプロピオン酸が少なく、プロピオン酸を投与することで症状が軽快するという論文がヨーロッパの研究で発表されており、こちらも免疫との関係性が考えられています。
※2 多発性硬化症:視力や感覚の障害、運動麻痺などさまざまな神経症状が繰り返し出る難病であり、自己免疫疾患の1つ。
出典:Cell, 2020, 180(6):1067-1080.e16.doi: 10.1016/j.cell.2020.02.035.
※2 多発性硬化症:視力や感覚の障害、運動麻痺などさまざまな神経症状が繰り返し出る難病であり、自己免疫疾患の1つ。
出典:Cell, 2020, 180(6):1067-1080.e16.doi: 10.1016/j.cell.2020.02.035.
ここまでで短鎖脂肪酸は、病原体の侵入を防いだり、免疫細胞の暴走によるアレルギーなどを抑えたりすることがわかりましたが、具体的にどうすれば増やすことができるのでしょうか。
健康な人の腸内では、十分な量の短鎖脂肪酸を腸内細菌が産生しています。しかし、病気になったり、体調を崩したりすると、腸内環境が乱れて産生量が減少することがあります。
腸内細菌を元気にして短鎖脂肪酸を作るためには、もち麦や大麦、納豆、海藻類、ごぼう、里芋、果物などに含まれる「水溶性食物繊維」の摂取がおすすめです。
水溶性食物繊維やオリゴ糖類などは、腸内細菌のエサ(プレバイオティクス)になります。それらプレバイオティクスと、人に有益な作用をもたらすビフィズス菌や乳酸菌などのプロバイオティクスを摂ることで、腸内細菌のバランスが良くなり、短鎖脂肪酸がたくさん生成されます。
ここまでで短鎖脂肪酸は、病原体の侵入を防いだり、免疫細胞の暴走によるアレルギーなどを抑えたりすることがわかりましたが、具体的にどうすれば増やすことができるのでしょうか。
健康な人の腸内では、十分な量の短鎖脂肪酸を腸内細菌が産生しています。しかし、病気になったり、体調を崩したりすると、腸内環境が乱れて産生量が減少することがあります。
腸内細菌を元気にして短鎖脂肪酸を作るためには、もち麦や大麦、納豆、海藻類、ごぼう、里芋、果物などに含まれる「水溶性食物繊維」の摂取がおすすめです。
水溶性食物繊維やオリゴ糖類などは、腸内細菌のエサ(プレバイオティクス)になります。それらプレバイオティクスと、人に有益な作用をもたらすビフィズス菌や乳酸菌などのプロバイオティクスを摂ることで、腸内細菌のバランスが良くなり、短鎖脂肪酸がたくさん生成されます。
つまり、「水溶性食物繊維」と「ビフィズス菌」は合わせて摂ることがおすすめです。
ビフィズス菌は、酢酸を生成しますが、その酢酸を元に酪酸産生菌は増殖・代謝を経て酪酸を作るため、酪酸の生成にも貢献しています。
腸内環境を整えて短鎖脂肪酸を絶やさず作り続けることが、免疫システムのパワーUPと免疫細胞のバランス調整につながり、健康を維持する鍵になるのかもしれません。
つまり、「水溶性食物繊維」と「ビフィズス菌」は合わせて摂ることがおすすめです。
ビフィズス菌は、酢酸を生成しますが、その酢酸を元に酪酸産生菌は増殖・代謝を経て酪酸を作るため、酪酸の生成にも貢献しています。
腸内環境を整えて短鎖脂肪酸を絶やさず作り続けることが、免疫システムのパワーUPと免疫細胞のバランス調整につながり、健康を維持する鍵になるのかもしれません。